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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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「また無意識に魔法使っちゃった? もしかして夢にうなされたの……?」


 キッチンのそばの小さなダイニングテーブルに、紙袋からパンを取り出しながらテッサが問いかけてくる。ミグはあいまいな返事をしつつ、床下の貯蔵庫からミルクを出しふたつのマグカップに注いだ。


「辛かったらいつでも言って」


 カップを手にテーブルに歩み寄ったミグに、テッサは微笑みかける。

 それはテッサのほうなんじゃないの?

 胸に湧いた思いは笑顔の幼なじみを前に言葉にできず、ミグは「ありがとう」と言ってイスにかけた。テーブルにはミグの大好きなトマトとチーズのパニーニが並んでいる。テッサはいつだってどこまでもやさしい。だけどそれが今は心配だった。

 ベガ国がプロキオン帝国の急襲を受け、戦火に呑まれた日から二ヶ月が経った。ミグとテッサは救援に駆けつけたリゲルの船団に助けられ今に至っている。他に助けられたベガ国民の情報は今のところ入っていない。

 ベガ国崩落の報せは瞬く間に連合各国に広がり、数日後に開かれた世界会議でプロキオン帝国へ総攻撃をしかけることが可決。卑劣な帝国への怒りと、盟友を失った悲しみで連合諸国の心がひとつになった瞬間だった。

 多勢に無勢となった帝国は一週間のうちに墜ち、指導者の首がはねられることで戦争は終結した。

 しかしリゲル首長のレゾンからその知らせを聞いたテッサの顔には、笑みも安堵もなかったのだ。


「また商店街のパン屋さんを手伝ってきたんだね。えっと、〈こむぎ亭〉だっけ」


 ミグはつまらない自分の夢で朝から沈みがちになってしまった空気を変えようと話を振った。


「ええ。ジェン様、あっ、ジェンさんのところのね」


 テッサは身内――家族と王城に仕える者――以外の人を様呼びする習慣が出て言い直した。たいていの人には驚かれて、もっと気軽に呼んで欲しいと言われるのがいつもの流れだ。〈こむぎ亭〉の女主人ジェンからもそう言われたのだろう。

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