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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第2章 雨降らしのアプリーシア
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 こうなればもうミグに残された手段は、できるだけ身を小さく見せてひたすら謝るしかない。くるくる、くるくる。ヴォルの怒りに比例して激しく巻かれる茶髪が、勢い余って抜けろ! と思っていても今のミグは口に出せる立場になかった。

 そんなミグとヴォルの関係を象徴するものが、

「二度と同じことでわずらわせないでください。次やったらこの生活費減らして差し上げやがりますから」

そう言って持たされた金だ。


「あら、ヴォル様! おはようございます。大きな声が聞こえてきましたけどなにか問題ごとですか?」


 そこへ紙袋を抱えたテッサが帰ってきた。王家仕込みの花がほころぶような笑みを湛えて、さっそうとミグの腕を引き間に入る。とたん、ヴォルは慎ましい表情を取りつくろって腰を折り、恭しくあいさつを返した。


「いいえ、テッサ様。今日の用事は済ませたのでもう帰るところです。では、失礼」


 今にも舌を噛みそうになりながらていねいな言葉を使ったヴォルは、行政特例区に見える半球形の屋根――首長官邸に向けてきびすを返した。

 ミグはテッサに、朝ごはんにしようと家の中へ手招かれたが、その前に遠ざかる憎たらしい小男の背に「イーッ」と歯を剥き出す。すると、まさか見えていたはずもないのにヴォルがパッと振り返って、立てた親指を地面に向かって振り下ろした。顔はミグに負けず劣らず、歯の隙間から舌まで出して醜い。

 あんなのを秘書にしている首長レゾンも、相当ひねくれた性格だろう。

 そんなことを考えながらミグはアパートの共用階段をダンッダンッと踏み鳴らし、地下一階の自室へ下りた。

 リゲル国の中央に位置する南区をぐるりと囲む崖っぷちに、ミグとテッサの住むアパートはあった。縁に引っかけるようにして建てられた木造建築は、三階建てでありながら地上に出ているのは一階部分だけしかない。

 キッチン・ロフトつきのワンルーム、風呂とトイレは共用だがバルコニーから一望できる景色だけは最高だ。そんな公営住宅に首長の厚意で家賃免除、毎月二〇万オーツの生活費給付を受ける生活がミグとテッサの現状だった。

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