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いっしょに帰ろうよ。
せつな、意識が眩みひざをついたミグに影が落ちる。もう顔を起こす力も残っていないミグの首に手がかかり、息苦しさとともに無理やり持ち上げられた。ミグは最後の瞬間までテッサと金髪男にかけた魔法を手放さないよう、両手を固く握り締める。
かすむ視界の中、白く濁った、しかし懐かしい青い瞳が見えて頬を涙が伝った。
「ねえ、お父さん……」
体がびくりと震えてミグはベッドから飛び起きた。思い出したかのように酸素をむさぼる胸をあえがせながら、目をきょろきょろと動かす。自室のロフトの上だとようやく理解すると動悸も収まってきた。
そそくさとはしごから下りて、下で眠っているテッサの寝息を確かめる。幼なじみも時折うなされているようだが、今夜はあどけない表情で安らかな呼吸をくり返していた。そのことを知る度に、ミグが心から安堵の息をついていることをテッサは知らないだろう。
ついでにのどの渇きを覚えキッチンに向かったミグは、そこの小窓からやけに光が差し込んでいることに気づいてバルコニーへ走った。
「あっちゃあ。これ絶対あの秘書に怒られるやつ……」
リゲル国の夜空を煌々と緑に照らす〈四重・防護壁〉を、ミグは目を覆いながら指で弾いて消した。




