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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
終章
349/352

349

 逃げるようにきびすを返したことは、どうか許して欲しかった。テッサとヴィンとシェラが仲よく話している中に、その輪の中に少し前まで自分もいたのに、それを言えないままいっしょにいるのは辛い。

 どんな顔をしていいかわからない自分を、変なやつだと思われて友だちから遠ざけられれでもしたらそれこそ、みっともなく泣き出してしまう。


「あっ、待ってください!」


 逃げておいて正解だと思った。テッサの声に呼び止められただけでもう、舌先にしょっぱい味が広がっていく。


「きれいなお花、ありがとうございます。器に活けて部屋に飾りますわ。この花を見ているとなんだかとても懐かしく感じるんです」


 桃色の花を見かける度にテッサだと指さして、そのあと必ずぎゅっとしてもらえた思い出が通り過ぎていく。


「よろしければお名前を聞かせて頂けませんか?」


 ミグは一度鼻をすすって風に目を乾かしながら振り返った。


「ミグです」

「ミグ様……。どうかまた寄ってくださいね!」


 必ず、と約束して、ミグはシェラにも笑みを向けてから歩き出した。寂しさはどうしても拭いきれないけれど、他人になっても変わらないテッサとシェラの心地よさが胸を温める。

 それを感じ入るように胸に手をあてていると、トクンと小さく跳ねた。


――いいのか。また友だちになるんじゃなかったのか。


 思えばこの魔石が唯一無二の相棒になってしまった。ミグは雪かきされた並木道の先を見てあっけらかんと返す。


「だってさ、これからは私のことよく思ってない人たちに追われるかもしれないでしょ。その人たちの記憶は消せてないもの。だから今、友だちになっちゃったら迷惑がかかる」

――なんだ。結局ひとりでいることを選ぶんだな。


 まっさか! とミグは自信たっぷりに笑い飛ばした。


「証明しつづけるよ。私が益獣えきじゅうだって。そしたら会いにいくよ。堂々とね」


 そう言ったとたん心臓がひくひくとけいれんしてミグはぎょっとした。しかしなにやら楽しげな気持ちが流れてきて、これが〈名もなき石〉の笑いなのかと理解する。

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