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手の中の花をいじって、ミグは思わず離れたところにいるテッサとクール、シャルを見やった。それだけで理解の笑みを深めたシェラは、腕を差し伸べて「どうぞ」とうながす。
おずおずと歩き出したミグの少し先を行くシェラは、明るい声で呼びかけながら手を振った。
「おーい、テッサ! きみにお客さんだよ!」
桃髪がパッと振り向く。湖面を渡ってきた風に髪を押さえながら、テッサは立ち上がってシェラを迎えた。
しかし次に若葉の目はミグを見てきょとんと瞬く。不思議そうな視線を向けられてシェラも目をまるめた。この人誰? という空気を、にらみ上げてくるクールと不安げなシャルの眼差しがさらに居た堪れなくさせてくる。
今日こそ言うって決めたじゃん!
すくむ足を叱咤して、ミグは両手に包んだサザンカの花を差し出しながら大きく一歩踏み出す。ディレットとノーブルをひと目見に行った先で、桃色のこの美しい花を見つけたら無性に会いたくなった。
「あの、〈バックトゥバック〉のみなさんの活躍、陰ながら応援してる者です。特にテッサさんは私と同じくらいお若いのに、立派だと思います。その、花みたいにきれいな髪色にも憧れてて……!」
自分の髪に触れたテッサが苦笑したように見えて、ミグは余計なことを口走った自分を脳内で殴りつけた。
「と、とにかく、えっと、あっ、これ私の気持ちです。受け取ってください!」
サザンカを押しつけてしまったらミグはもう逃げ出したくて堪らなくなった。友だちを作るのってこんなに大変だったっけ? と自問してみるもわからない。テッサと出会ったのは五歳の頃で、気づいたら遊ぶ仲になっていた。友だちになって、なんて言い合った覚えはない。
子どもは本当にたくましい。まだ警戒の色を見せるクールとシャルがミグには尊く映った。
ふと、いつの間にか向きを変えた風が遠くの物音を連れてきた。じゃあ頼んだよ、とジェンの威勢のいい声が届く。ちらりと奥にそびえる廃ホテルを見やったミグは、正面扉から覗いた金髪を見て思わずあとずさった。
「じゃあ私はこれで!」




