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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第7章 反撃
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 しかしミグに周りを気にしている余裕はなかった。ぐったりしているテッサとヴィンに呼びかけても反応がない。呼吸音はほとんど聞き取れず、首筋に触れると脈はかなり弱まっていた。


「なんでっ、どうして……!」


 〈女神の祝福(ララ・セラピア)〉は絶えずかけつづけている。毒の進行は食い止められていた。加えて紫紺に変色した細胞へ魔力を集め、重点的な治療もおこなっている。


「ノインだって眠っているのに!」


 術者の意識がなければ魔法の効果は消えるはずだった。


『……毒の与えた損傷が激しいんだな。ふたりの臓器はほとんど破壊されている。生命維持ができないんだわ。このままだと、ふたりは――』


 叫び出したい衝動を噛み殺し、ミグは両手を地面に叩きつけた。〈名もなき石〉に操られていたって、自分の声でその先の言葉は聞きたくない。

 だいじょうぶ。まだ最後の想いが残ってる。

 ミグは深く息をついて拳をほどき、震える指先でテッサとヴィンの額に触れた。


「ヴィンの想いを全部使って、ふたりの臓器を再生して」


 失ったものを取り戻す。それは治癒魔法でも届かない神の領域だった。しかし人をドラゴンに造り変えるほどの力を持つ〈名もなき石〉は無理だと言わなかった。

 無言を肯定と受けとり、ミグは呼吸も辛そうなテッサを見やる。


「また友だちになってね」


 親友のまぶたがかすかに震えた。期待よりも恐怖が上回ったミグは、思わずうつむいた自分に失望する。どれだけ覚悟を決めても、これしかないんだと追い詰めても、のどを塞ぐ寂しさと苦しみは飲み下せない。


「テッサ……ヴィン……ごめんなさい。ゆるして……」


 もうこれ以上ふたりを見る勇気が持てず、ミグは想いがあふれる前に息を止め、目を閉じ、胸の魔石に意識を集めた。

 その瞬間、額に伸ばした手をわし掴まれる。


「や、めろ。許さねえ……」


 ヴィンだった。水色と紫の異なる光彩でミグをにらみ、血がこびりついた唇の隙間からあえぐような呼吸をもらしている。

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