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しかしミグに周りを気にしている余裕はなかった。ぐったりしているテッサとヴィンに呼びかけても反応がない。呼吸音はほとんど聞き取れず、首筋に触れると脈はかなり弱まっていた。
「なんでっ、どうして……!」
〈女神の祝福〉は絶えずかけつづけている。毒の進行は食い止められていた。加えて紫紺に変色した細胞へ魔力を集め、重点的な治療もおこなっている。
「ノインだって眠っているのに!」
術者の意識がなければ魔法の効果は消えるはずだった。
『……毒の与えた損傷が激しいんだな。ふたりの臓器はほとんど破壊されている。生命維持ができないんだわ。このままだと、ふたりは――』
叫び出したい衝動を噛み殺し、ミグは両手を地面に叩きつけた。〈名もなき石〉に操られていたって、自分の声でその先の言葉は聞きたくない。
だいじょうぶ。まだ最後の想いが残ってる。
ミグは深く息をついて拳をほどき、震える指先でテッサとヴィンの額に触れた。
「ヴィンの想いを全部使って、ふたりの臓器を再生して」
失ったものを取り戻す。それは治癒魔法でも届かない神の領域だった。しかし人をドラゴンに造り変えるほどの力を持つ〈名もなき石〉は無理だと言わなかった。
無言を肯定と受けとり、ミグは呼吸も辛そうなテッサを見やる。
「また友だちになってね」
親友のまぶたがかすかに震えた。期待よりも恐怖が上回ったミグは、思わずうつむいた自分に失望する。どれだけ覚悟を決めても、これしかないんだと追い詰めても、のどを塞ぐ寂しさと苦しみは飲み下せない。
「テッサ……ヴィン……ごめんなさい。ゆるして……」
もうこれ以上ふたりを見る勇気が持てず、ミグは想いがあふれる前に息を止め、目を閉じ、胸の魔石に意識を集めた。
その瞬間、額に伸ばした手をわし掴まれる。
「や、めろ。許さねえ……」
ヴィンだった。水色と紫の異なる光彩でミグをにらみ、血がこびりついた唇の隙間からあえぐような呼吸をもらしている。




