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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第7章 反撃
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「ノインッ、目を覚ませえ!」


 鈍い音を立てて、結晶と岩の籠手に覆われたミグの拳とノインの額がぶつかった時、異形の腕が〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉の壁を砕き割った。

 降り積もった雪とともにノインはサラサラと地上へ吸い込まれていく。抗いもせず投げ出された腕をミグは掴んだ。


「ナキを泣かせないで!」


 驚愕に見開かれた赤い目の奥で瞳孔はまるみを帯び、差し込む光の揺らめきが感情を見え隠れさせている。


「大切なんでしょ! 毒雪から守ってあげるくらい! きみの心はまだ完全にドラゴンになってない! きみを愛してくれる人がここにいるんだから、諦めないでよ!」


 指がひくりと震えて、ノインは片頬だけで薄く笑った。その嘲笑はどこか痛々しく、細められた目に途方に暮れた色を浮かべている。

 竜化もきっと、ミグと〈名もなき石〉のように明確な力関係が成り立っているのだろう。けれどナキはまだ手を伸ばせる。ミグと違ってこぼれる父の命をちゃんと受けとめられるのだ。

 誰よりも父をすくいたかったミグが、掴んだこの手を離すわけにはいかない。


「ナキは、私を連れていけばきみに褒められるってすごくうれしそうにしてた。褒めたことがあるんでしょ? 思い出して」


 ひとつ瞬きを落とした目がせつな、儚く震える。なにかを見つけたように一点に注がれる眼差しを、黒い影がゆっくりと包みはじめた。それとともに白いたてがみは風でほつれ、羽毛の角はみるみる枯れていき、尾は水のように溶けていく。

 ノインが彼本来の黒い瞳を取り戻した時、まぶたが静かに降りてきてかくんと項垂れた。その拍子に翼は紫のもやとなって空気に溶ける。力の抜けた体を異形の腕でおそるおそる掬い上げてみると、ノインは静かな寝息を立てていた。




「テッサ! ヴィン!」


 ミグは急いで〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉を解除し、みんなを〈防護壁シールド〉に乗せて地上に戻った。

 離発着場にいる誰もがミグを遠巻きに見ていた。ディレットもヴォルも駆け寄ってくることはない。それどころかナキも疲れ果てたシェラも、不思議そうな目で見つめてくるばかりだ。

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