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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第7章 反撃
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 ふざけた微笑みにまともに相手をするつもりはない。

 テッサとヴィンの生命だけが虚しくすり抜けていく。どんなに強く押さえても指の間からにじみ出し、すくえない。

 あの時感じたどうしようもない無力さが、焦燥が、ミグの心を恐怖へ突き落とした。


「もうやめてえ!」


 泣き叫ぶミグの頬をなでて、父の手は病床に沈んだ。自分にもっと力があればと、どれだけ拳を握り締めただろう。置いていかないでと、何度月に願っただろうか。

 取り返しのつかない痛みに比べたら、友の記憶から自分だけが消えることなんてかすり傷だ。


「〈防護壁シールド〉〈女神の祝福(ララ・セラピア)〉〈封縛の鎖(セキュア・カデア)〉」


 ミグはテッサとヴィンを光の箱の中に閉じ込め、治癒の陣を敷き、体を鎖で縫い止める。


「なにしやがる! ぐうた! おい!」


 激しく長斧を壁に叩きつけミグを罵るヴィンの横で、テッサは途方に暮れた目をしていた。


「なんでこんなことする、んですか!? あれ、私こんな……? 違う。あの子は友だちで、ずっといっしょにいて、名前も知ってるのよ……! 名前は、名前は……!」

「姫さん!? どうしたんだ! なにが起きてる!?」


 テッサのミグに対する想いは強く、魔法を六つ使ったくらいでは完全に消えなかった。

 ミグは毒で感覚の鈍い足を叱咤して立ち上がる。状況を注意深く観察するノインを見上げながら、〈名もなき石〉に問いかけた。


「顕現化、もっとできるんでしょ。やって」

『……負担が大きいんだな』

「覚悟の上! テッサともう一度友だちになるために、今ここで守らなきゃいけないんだ!」


 ミグの強い意志に応えて胸の魔石はドクンとひとつ脈動した。テッサの友愛や信頼がミグの中で溶けて熱い魔力へと変わっていくのを感じる。

 その猛き血潮は全身を巡り、ノインが植えつけた異物を焼き尽くしてなお留まることを知らない。背中から噴き上がる陽炎は二対の円環を描き、虚空の彼方から異形の腕を喚び出した。

 ミグは〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉の壁を蹴り飛び上がる。ノインが身構えた時にはもう、異形の拳を振りかざして頭上にいた。

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