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なにをやっているのか。自分でも理解の追いつかない行動に、場違いにも呆ける。そこへ金の髪を踊らせ雷鳴とともに現れた男が、半月の長斧をノインの首に振りかざしたのは一瞬のできごとだった。
「ゼク、スト……?」
記憶より短くなった髪に長斧を軽々担ぐ背中がかつての父と重なる。しかしミグを振り返った目は水色と紫の異なる光彩を湛え、困ったように笑った。
「ヴィン!」
過ぎ去った日々の光景から我に返り叫んだ時にはもう、ヴィンは〈防護壁〉を足場にして間一髪逃れたノインを追っていた。
そこへグッと頭を押さえられるほどの質量を伴った冷気が場を支配し、ミグは思わず手をついてしまう。しかし腕が沼に沈んでいくことはなかった。
手のひらから瞬く間に毒の沼が白く凍りついていく。パキリ、ミシリ、と毒たちの悲鳴も閉じ込めて冷気はノインと武器を交えるヴィンの元まで覆い尽くす。
するとヴィンは相手の両剣を弾き、〈防護壁〉の足場を踏み切って回転を加えながら半月の刃を氷に叩きつけた。
轟音がとどろき、オレンジ混じりの紫電が八方に走る。荘厳な鐘の音を立てて氷が砕け散り、ミグは拘束から解放される。
思わず緊張の糸がゆるみ座り込んだミグの脇を、桃色の春風が駆け抜けていった。
「テッサ!」
伸ばした手は遅過ぎた。父王とともにあった海色の槍を抱えて、親友は迷いなくノインに挑んでいく。
ヴィンを狙うノインのすばやい連撃をテッサは氷の壁で遮り、深く沈み込んで足払いをかける。後退したノインを、氷の壁の死角から回り込んできたヴィンが薙ぎ払った。
その攻撃はミグから当たったかに見えたが、ノインはよろめく素振りもしなかった。両剣をひらめかせ赤と紫の軌跡を描きながら、ノインは攻めに転じる。
ヴィンの長斧をかわしのど元まで迫った剣先は、不自然に止まった。見るとテッサが足元に氷を放ち動きを封じている。忌々しく顔を歪めたノインの隙をついて、稲妻をまとったヴィンの雷撃が脳天を襲った。




