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堪えるように細められたゼクストの目には、箱の中に取り残された少年が映っているのだとわかった。
なんで自分だけ、と恨んだ夜がなかったわけじゃない。ミグといっしょに助けられた自分を夢想したこともある。
けれど、ヴィンはゆるやかに首を横に振った。臆病で卑怯な少年はもう箱の中にいない。黒髪と桃色の髪の少女が見つけて連れ出した。暖かくてまぶしい光の元へと。
「全部がよかったと言えるほど強くはない。でも今の俺だからあいつに寄り添ってやれるんだと思う」
そしてミグという罪と和解することもなかった。お互いだけが同じ苦しみを分かち合える理解者だとも気づかないまま。
ゼクストは痛みを押し込めた顔で笑って、ヴィンを力強く抱き締めた。
「俺の想い全部お前に託す。どうかミグを守ってやってくれ」
ソウルタクトが現れた時、自分にそれを持つ資格があるのかと迷った。けれどミグを救った英雄が少女を助けられなかった少年を信じて預けるというのなら、そんな自分も信じてみようかと思える。
いや、信じたい。ミグを思い苦しんだ歳月も、ゼクストの選択も、間違いじゃなかったと証明するために。
「来い、アレクサンドロス」
「応えて、リヴァイア」
ヴィンとテッサが高らかに名前を呼んだ瞬間、ゼクストとジタン王の手元にあったソウルタクトは消え新たな主の元に馳せ参じる。
それを満足げな笑みで見届けたゼクストとジタン王は、左右に身を引いて想いを託した若者たちに道をゆずる。ヴィンとテッサは駆け出した。どうすればいいのかはもうわかっていた。
それぞれ杖を構え、心地いい夢の世界を切り開く。
――行け。振り返らずに。
毒雪舞う、おどろおどろしい沼地に踏み込むせつな、背中を押した暖かな風がそうささやいた。
ミグのあごを掴むノインの手がひくりとなにかに反応する直前、ミグは誰かに肩を抱き締められるような感触に包まれた。その温もりにほぐされてテッサとヴィンにかけた〈防護壁〉を解いている自分がいた。




