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それらは竜の子の魂が結晶化したソウルタクトと呼ばれる武器だった。主を選ぶという先人の魂が宿った杖は、陽の光を受けて星くずを散らしたようにキラキラと神秘的な煌めきを放っている。
その美しさに感嘆の吐息をもらすテッサに反して、ヴィンはかかとを引きずりわずかにあとずさった。
「名前を呼んでお前のものにしろ」
まるで臆病な心を見透かしたかのようなゼクストの言葉に、ヴィンは勢いよく顔を上げる。ゼクストの青い目はまっすぐにヴィンを映していた。
「お前はもうこいつの名前を知っているはずだ」
まさか、と思ったその胸にひとつの名前が浮かんできて驚く。ヴィンはにわかに泣きたい気持ちに駆られ唇を震わせた。
「なんで。どうして」
「こいつはな、どうも愛する人を一途に守りつづけたやつの魂らしいんだわ。ミグのこと、いつまでもねちねち引きずってるお前にぴったりだろ?」
茶目っ気をたっぷり含んだ瞳に笑いかけられて、すくんでいた心が徐々にほどかれていく。
ヴィンは一歩踏み出した。そっと見守っていたテッサと視線を交わし、うなずき合う。
「テッサ。美しさだけでなく、痛みも醜さも知り、それらを許し受け入れた今のお前なら、この魂は応えてくれるだろう」
父ではなく一国の主として、厳しさを湛えた眼差しで告げるジタン王に、テッサも凛と表情を引き締めうなずく。
「はい、お父様。力に溺れず、己と向き合い、間違いを認める勇気を忘れません。それと――」
そこで一度言葉を切り、テッサはちらりとゼクストを見た。
「友を愛し、信じる心も」
花のように愛らしく微笑んだテッサを、ゼクストは「いい子に育ったよなあ」と喜び満面の笑みで桃色の髪をくしゃりとなでた。
当然だ、と親バカを発揮するジタン王が意外でヴィンが思わず噴き出していると、ふいに温もりを感じる。少し雑なゼクストの手が髪を掻き回していった。
「ありがとな」
我が子に向ける慈しみ深い声が耳に吹き込まれる。そして身を離したゼクストの目には痛みが帯びていた。
「すまなかった。お前も連れていってやれなくて」




