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にんまり笑ったミグをまねするように〈反射壁〉はつぼみを開き、自ら伸び上がって巨大隕石をまる呑みにする。そしてミグは壁の弾力性を活かして星を転がした。舌の上であめ玉を遊ばせるように、何度も何度も、ノインをかばうドラゴンもいっしょくたにしてこねくり回す。
しかし誤って舌を噛んでしまった時の痛烈な刺激が走り、ミグの〈反射壁〉は隕石を弾き返しきれずに破れた。星は数十メートル転がって砕け散る。
魔法が破壊された反動でミグはひざをついた。激しい心臓の音が鼓膜を叩く中、生物の焼けるにおいに顔を起こす。
だらりと投げ出されたドラゴンの両翼は破れ折れて、二度と空を飛ぶことは叶わないだろうことは一目瞭然だった。
尾の先はちぎれ近くに転がっている。ふわふわだった白いたてがみも焼け落ち、皮ふは赤くただれ肉が溶け出している。
「ノイン……ノイン……だいじょうぶ……?」
骨まで削ぎ落とされた顔を近づけて、ドラゴンは腕の中の主を気遣う。揺れ動くノインの頭がわずかに覗き見えた。
ただれ落ちていく肉の崩壊が止まらないドラゴンの絶命が近いことはミグにもわかった。消えゆく命に一瞬でも同情を抱いた自分を、ミグは拳を握り締めて戒める。
友人とお茶を楽しんでいただけのゼクストを九年間毒で苦しめ、死に至らしめたのはあの竜だ。他にも被害にあった町や人々がいただろう。
「ギフト、お前……」
ドラゴンに呼びかけるノインの声がかすかに聞こえた。
ギフト。その名を胸中でつぶやきながら、ミグは鉛のように重い体を引きずって立ち上がった。〈名もなき石〉の膨大な魔力にこの体があとどれくらい耐えられるのだろう、と考えながらシェラに歩み寄る。
シェラは〈七重〉を放って仰向けに倒れ込んでいた。意識はあるらしく、隙間風のような呼吸音が浅く早く響いてくる。
ミグはかたわらにひざをつくと、汗で肌に張りつくシェラの髪をていねいに払った。高魔力の熱に浮かされて、潤む若葉の目がミグを映す。
「ほらね。シェラの魔法は造り出された私なんかより、本物なんだよ」




