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手をノインに向かって振り下ろす。〈拡散〉を通過した〈六重〉の柱はそれぞれ三本に分かれ、雨となりノインに降り注いだ。
ミグは頭の中の血管が切れたような痛みを感じた。高威力魔法の複数同時操作に体のほうが追いついていない。少しでも気を抜けば途切れそうな魔力の繋がりを、強引に手繰り寄せる。
ドラゴンが頭を振り乱し、怒りと悲痛に震える咆哮をまき散らした。ぎょろりと剥き出した血色の目玉はミグを通り越し、世界に彼だけしか存在していないかのようにノインを映して飛び立つ。
毒竜の爪と牙に砕かれる魔法陣の残響を聞きながら、ミグは体が燃え出しそうなほど高めた魔力を解き放つ。暗む視界の中で七色の花びらに囲まれた桃色のドラゴンを笑った。
毒竜、きみだけは許せないよ。
「〈七重・反射壁〉」
ミグの攻撃からノインをかばうことに気を取られたドラゴンは、みるみると閉じていく花弁に成す術なく封じ込められる。主を腕と翼に抱え、あたりの壁に牙を突き立てるもののやわらかな光はただしなやかに受けとめるばかりだ。
ミグは全身から滴る汗を拭うことも重怠い体を揺らして振り返る。
「シェラ、全力できなよ。返り討ちにしてあげるから」
バキリ。魔法陣を叩いた杖がシェラの手の中で折れた。その白い断面と同じ歪な笑みがシェラの口元に浮かぶ。
「俺は優等生なんかじゃない。ただの負けず嫌いだよ」
高速に回転しはじめた魔法陣が風を生み、ひつじ頭を激しくなぶる。その風鳴りが高く高く澄んでいくごとに、円環からほとばしる赤い閃光は虹色に瞬きはじめた。
「〈七重・滅びの流星〉!」
シェラが手を振り上げた瞬間、魔法陣は上空に転移して広がった。厚く垂れ込める雪雲を割いて、七色の帯を従えた巨岩が頭を出す。それは青や緑の炎を噴き上げながら、まっすぐにミグの〈反射壁〉へ襲いかかった。
「〈展開〉!」




