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「やる」
――即決だな。
「生きていればなんとかなる」
くつくつと笑い声が体中に響いた時、ミグは胸に熱を感じた。見下ろした地面から一気に雪が溶け消え、見たこともない赤い魔法陣が現れる。
それは水が土に染み込むようにミグの肌に吸い上げられていった。手足からひざ、肩、腹から胸へと魔法陣に飲まれたところから熱に焼かれる。
思わず仰け反りうめき声をもらしたあご先から、大粒の汗が滴った。
次にミグを襲ったのは浮遊感だ。体がひとりでに起き上がり、地面から離れていく。視界に映る足先に違和感があった。
赤い光沢を放つ結晶が岩石と混ざり合いながら両足を覆っていく。それは太ももまで迫り、爪先からナイフのような四本爪を生やして止まった。
気づけば両手も二の腕まで結晶と岩の鎧に包まれている。なにが起きているのやら、自分の体をあちこち見ているうちに腰から胸をなにかに挟まれた。
見るとあばら骨のような結晶が背中から回されている。まさかと思って背中に手をやると脊柱が連なり、その先からはしっぽまで垂れていた。
結晶と結晶が魔力で結びついて、左右に揺れるとカタカタ鳴る。しっぽは薄気味悪いことにミグの意思に従っていた。
「これじゃいよいよ怪物だよ」
思わず頭を抱えたミグの手は、硬いものにぶつかって阻まれた。
うそでしょ。
おそるおそる手を伸ばすと耳の上から角が生えている。滑らかな手触りからたぶん赤い結晶だ。かなり太くて、手を目一杯広げても指先が届かない。
駆逐砲を運んできた黒牛の横まっすぐに生えた角と似ている。そう思った時には理解の限界だった。
「説明求む!」
『今できる最大限の顕現化だ。地下でも少しやってたんだな』
胸の奥底からではなくミグの口を借りて喋る魔石に、強烈なムズがゆさを覚えた。だがそれだけ今の状態は、ミグと〈名もなき石〉の同調が高まっているというのも感じる。
ミグの手足は間違いなくミグの支配下にあった。それだけでなく魔石からあふれる無尽蔵の魔力も、太古からの知識も、淀みなくミグの中へ流れ込んでくる。




