32
「そんじゃサクッと録って、サクッと回収するか」
金髪男がムチのように鎖を振ると、袋の中から大男が吠える。人の頭を容易にわし掴めそうな太い指が〈防護壁〉にさらに食い込み、飛び下りると同時に縦に裂いた。
「ぐっ……!」
その衝撃と魔力を失う虚脱感がミグに返ってきて身を折る。外側から魔法陣を壊されたのはこれがはじめてだった。
「ミグ! しっかりして!」
「くそっ。テッサ様をお守りするぞ!」
崩れかかった体をテッサに支えられながらミグは直感のままに叫んだ。
「その大男と戦ってはダメ! 私が時間を稼ぎます! その間にテッサを!」
城の裏手の発着場が無事なのか。飛べる船は残っているのか。今となってはわからない。ミグには信じることしかできなかった。「ミグ!」幼なじみの手を振りきって円環を描きながら前に出る。
〈三重〉がダメなら〈四重〉。そう考えて魔法陣を叩こうとしたミグの手を大男の声が止めた。
「〈杖化〉アレクサンドロス」
まさか。
ミグは自分の目を疑った。そばにあったがれきから武器を喚び出す大男の魔法陣は紫電を放っている。かざした手に向かってみるみる造り変えられていく紫の長い柄には見覚えがあった。円環から引き抜かれた美しい半月の刃が、火の粉舞う夜空に振りかざされる。
「ミグー!」
「〈電衝撃〉」
その一撃が淡々と振り下ろされる寸前、ミグはテッサの声で我に返り魔法陣をすばやく四回叩いた。だが紫の閃光は緑の壁が形成されるよりも速く駆け抜け、まるで紙きれをねじ曲げるがごとく簡単に壁をひしゃげ壊す。
轟く雷鳴とともにミグは吹き飛ばされ、屋根の上に転がる。駆け寄ったテッサに抱きとめられた時、再び稲妻の走る音が響いた。
ドッと重い物音がして顔を起こしたミグは息を呑む。三人の近衛兵が血を流し倒れていた。かすかに焼け焦げる異臭が鼻をかすめる。




