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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第7章 反撃
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 ナキは困ったように眉を下げて指をいじった。少し難しいことを言っているとテッサはわかっていたが、すべてではなくとも思いは伝わると信じている。子どもは大人より遥かに優れた想像力を持っている。そして日々、驚くほどに成長しているものだ。


「ナキは、お父さんがこわい。おこってほしくない。テッサおねえちゃんとかジェンおばさんみたいに笑っててほしい。クールとシャルと、おわかれもしてない。……あいたい。クールとシャルにあいたい」


 両耳をふさぐように頭を抱えうずくまるナキに伸ばした手を、テッサはためらった。本当は今すぐここから連れ出してしまいたい。けれど、一時的な寂しい気持ちに捕らわれているだけだとしたら、後悔を残させてしまう。

 あとひと欠片、決定的なものが欲しいと願った時、絞り出されたか細い声がテッサの鼓膜を打った。


「ナキは、もう、おこられたくない」


 テッサはナキの手を掴んだ。触れ合ったところから温かな確信が広がっていく。


「ナキさん、私といっしょに帰りましょう。みなさんのいるうちへ」


 薄く涙の膜を張った青い隻眼ははっきりとテッサを映し出し、安堵の光をほころばせながらひとつうなずいた。

 テッサはナキの腕を引いて後退しつつ、操舵室内をサッと見回した。ノインは〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉が次の主砲で破れると踏んで、作戦をまくし立てるように話している。帝国兵は全員、その声に気を取られていた。

 今しかない、とテッサは少し大胆な動きでナキをすばやく通気孔の中へうながす。ナキは何度も父ノインを気にする素振りをした。焦れったいと思う反面、割りきれるものではないと痛みを感じる。

 連合軍は帝国兵を例外なく命までは取らないと決めている。ノインが捕虜となり、再びナキと話す機会が与えられることを今は祈るしかない。

 ゆっくりとではあったがテッサの励ます声に導かれて、ナキは進み出した。肩越しに目を凝らしてテッサは出口までの距離を確認する。足はあの分かれ道に差しかかっていた。もうすぐで半分くらいだとナキに声をかけながら、服の滑りに助けられ下がっていく。

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