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テッサ、警備兵ふたり、そして民間の操縦士と誰も欠けていないことに息をつく。最後に、後方を気にしながら合流したルンは「〈防護壁〉で時間稼ぎしたわ」と告げた。うなずき返しつつ、ヴィンは手すりから下層を覗き込む。あたりに吹く風はやんでいた。
「吹き抜けになっている下は通気孔が集まっている。稼働中は熱を持つ動力装置を冷却するためだ。その孔を使って、ここからはナキを探す組とおとり組に分かれる。姫さん、おじょうちゃんはどこにいると思う?」
テッサはあごに指をかけ視線を下げたが、すぐに確信を持った声で言った。
「ナキさんはきっとお父様といっしょにいたいはずです」
「よし。操舵室で決まりだな。前方、最上部だ。姫さんと俺で行くべきだと思うが、そっちにおとりを任せてもいいか?」
「問題ないわ」
ルンはロングブーツのヒールをツカツカと鳴らしながら動力装置に歩み寄った。ガラスを炎の矢で砕き、特大魔石に触れたかと思うとでこぼこしたその表面に口づける。バトルロイヤルでミグの額にキスした時と同じように、魔力の流れるざわめきをヴィンは感じた。
だが今回はどうやら魔石から魔力を吸い取ったらしい。長いまつげをふわりとはためかせ、ルンは満足げに唇をなめた。
「私たちが行ってもナキちゃんは怖がるだけだろうし。中央あたりで好きに暴れさせてもらうわ。救出したらすぐこっちに来なさい。ドラゴンに変身して脱出させてあげる」
警備兵と操縦士にも目配せしてうなずき合うルンに、テッサは呼びかけながら勢いよく頭を下げた。
「あの、ありがとうございます……!」
それは感謝だけでなく、危険に巻き込んだ申し訳ない思いもにじんだ声だった。そして、深々と沈んだ背中にはきっとナキのことともうひとつ、ミグを懸念する思いも負っているのだろう。
すべてを達観したような静かな眼差しをしていたホッパーと違い、ルンのミグを見る目はヴィンにも複雑に映った。ルンは少なからずミグの存在に迷いを抱いている者のひとりだ。それはミグとディレットをいっしょに映した時、より濃く歪に浮き上がる。




