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お次は右から左へ。縦一列、順に降り注ぐ光を起き上がると同時にひざで回転しながらかわしていく。そして左右斜め二線、その真ん中にあいた隙間へ飛び込めば動力装置だ。
ヴィンは稲妻の間を掻い潜り、しなやかな前転で受け身を取って息をついた。その時、頭上からバチンッと音が落ちた。
さやは通路の奥まで届いていなかった。最後だと思った稲妻のさらに奥にもうひとつ、罠魔動機があったのだ。
そう冷静に考えながらもヴィンはただ目をつむることしかできなかった。
「……俺、死んだ?」
首裏をピリリとした刺激に撃たれた気がした。あまりの瞬撃に脳の処理が追いついていないのか痛みは感じない。赤くでろでろにただれた皮ふを想像し、ヴィンはおそるおそる手を伸ばした。
えり足が軽い。首筋を風がなでていく。
ハッとしてヴィンは振り返った。束ねていたはずの髪が床に散らばっている。しかしどれだけ目を凝らしても黒い髪結いひもは見当たらない。
「ぐうた、が、守ってくれたのか……?」
器用に髪とひもだけが焼け落ちた偶然を、とっさにそう解釈する。だが口にしたとたん、なにか薄ら寒いものが胸をざわめかせた。もやのような感覚を追いかけてみても指の間をすり抜ける。ヴィンは埒が明かないと頭を振り、今確かに目の前にある管へと意識を定めた。
ベルトに差していた剣を手に、管を片っ端から断ち切っていく。そのうちに特大魔石から響いていた音は低音へと弱まっていき、オレンジ色の光がチカチカ瞬いたかと思うと戦艦が大きく傾いた。
ヴィンはふらつきながらもとっさに横向きになった動力装置へ飛び移り、天井の管も届く限り傷つける。すると照明魔灯が完全に落ち、薄暗い紫色の照明に切り替わった。それと同時に船はゆっくりと姿勢を戻していく。
「ヴィン様」
通路の向こうから顔を出したテッサに止まれと合図し、ヴィンは管のかけらを投げて罠魔動機が切れていることを確かめてから手招いた。




