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筋肉がまるまると隆起した黒牛四頭に引かれ、後ろからは十人もの警備兵が押す台車に乗るは小山と見間違うほど高く太い二連式大砲だった。砲身の長さはきっと倉庫街からミグの家である崖上のアパートまで届くくらいある。
さらにその後ろからは三人がかりで荷車を引く兵士の姿があった。全部で二台ある荷車を視線で示しながら、牛に乗っていたノーブルは滑り降りてくる。
「断魔弾と九〇〇ミリ砲弾それぞれ二組ずつ。ご要望通りです」
警備兵が荷車にかけていた布をさっと外し、円柱形の弾丸を見せる。うなずいて確認したディレットの腕の中でミグはぶるぶると震えていた。
「九〇〇ミリって、断魔弾も同じくらいの大きさに見えたけど……!?」
顔は別の意味で青ざめているが、容態はだいぶ落ち着いてきたミグをそっと離して立ち上がり、ディレットは腰に手をあてふんぞり返った。
「お察しの通りこいつは費用も超ド級! 一発五千万オーツだ! 女神ララと一夜を過ごすくらい上がるだろ? もう誰も俺をケチとは呼ばせないぜ! ははははは!」
ディレットは上機嫌にノーブルの肩を引き寄せて拳を掲げた。迷惑そうな顔をしながらも拳をこつんと合わせて応えたノーブルは、頭が痛そうに眉をひそめる。
「主に、先に飛ばして〈防護壁〉を無力化する断魔弾の仕入れ費です」
「ですよね」
ミグや警備兵たちの視線が温度を下げれば下げるほど、ディレットの心は舞い上がる。国民が汗水垂らして集めた血税がせつなの花と散ろうと、その命と比べれば安いものだ。
テッサ、ヴィン、ルンたちの戻りを待ち遠しく思いながら、ディレットは弾の装填を指示する。
「ノイン。てめえの横面を札束で殴ってやんよ」
ヴィンは長い通路の先に煌々と輝くオレンジ色の特大魔石を見つめて叫んだ。
「見えた! あれが動力装置だ!」
特大魔石が収まったガラスケースと天井や床を這う無数の管が繋がっている。木の根っこのように、戦艦各所へ魔力を運んでいる紺色の管を切れば動力は落ちるはずだ。




