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「いいか。あと三十分でこっちの兵器の準備が整う。その前にナキを見つけて助け出せ。お前らが脱出しなくてもこっちは遠慮なく撃ち込むからな。姫サマ、通信魔動機を持っていけ。侵入のタイミングを陽動部隊のシェラと合わせろ。魔石を叩いて紫にしておけ」
言いながらディレットはズボンのポケットから出した小箱をテッサに向けて投げた。テッサは小箱を受け取るとディレットに向けて深々と頭を下げた。
武器は船といっしょに用意させてる、とつけ加えてディレットは定期飛行船が待機する東区商店街停留所へテッサ、ヴィン、ルンを送り出す。
そのまま走り出していくテッサとヴィンの背中に、ミグはにわかに焦燥が募った。力の入らない体を雪の積もる地面に引きずって手を伸ばす。待って、と叫ぼうとした時、まるで願いが届いたかのようにテッサとヴィンが引き返してきた。
「忘れるところだった。ぐうた、髪を結え!」
「え。あ……」
「時間がないわ。早く!」
目の前にどかりとあぐらをかいたヴィンに目を瞬かせていると、テッサが後ろからミグを抱え起こしてくれた。髪結いひももなくなり流れるままになっているヴィンの金髪をとりあえずまとめていると、すかさず横からテッサがひもを差し出してくれる。
なんの飾り気もない黒いひもで髪を束ね、最後の結びはテッサとふたりでぎゅっと絞った。
「テッサ。ヴィン。私を置いていかないで」
この手を離したらふたりは行ってしまうんだと胸が詰まり、ひもの端を掴んだままのミグの手にそっと温もりが触れる。ヴィンの大きな手がミグの手を包んでいた。
「どこにもいかねえよ。俺たちがお前の居場所、なんだろ」
あやすようにやさしく触れるヴィンの手から、今度はテッサがミグの手を掬い上げて両手に閉じ込める。まっすぐに見つめる若葉の眼差しには少しの怒りと揺るがない意志が灯っていた。
「ミグが生きたいと思ったことが、間違った選択なんかじゃないってこの戦いで証明してみせる。何度だって証明する。世界中に。だからミグも――」
ミグは首を横に振ってテッサの言葉を遮った。




