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「防御しかまともにできねえお前にやる魔石は今のところない。大人しくそこで寝てろ」
ぐうの音も出なかった。ディレットの言う通り今は攻撃に出る時だ。防御と治癒くらいしか勉強してこなかったミグに魔石を回すのはもったいない。
それでも悔しくてミグは横になったままヴィンを指さした。
「それ言うならヴィンだって大した戦力じゃないから」
「うるせえよ! 俺だったら戦艦の中案内してやれるんだよ!」
「そうなのですか?」
首をかしげたテッサにヴィンは〈レティナ〉をはめ込んだ目元を軽く叩いてみせた。
「忘れることは苦手でな。帝国の戦艦内部はどれも構造が似通ってる。いけるはずだ」
「だったら私もついて行っちゃおうかしら。今とても暴れたい気分なのよねえ」
ヴィンにつづき名乗り出たのはルンだった。機をうかがうような目で会話を聞いていたシェラは焦った顔をする。ディレットもまた驚きにまるめた目をすぐに細めた。
「おいおい。お前はここで魔導師部隊の指揮を取るべきだろうが」
「やあよ。そんな地味な役、ノーブルでもできるじゃない。ナキを助けるついでに〈防護壁〉を切ったり動力に傷をつけられるのは、この中で私が一番適任よ」
そう言うなりルンはそっぽを向き、艶やかな金髪を揺らして輪から外れた。これ以上の反論は受けつけないという態度だ。
ルンの意見はもっともらしく聞こえたが、なにか含みも感じてミグはつい美女を視線で追う。すると、ふいに振り返ったルンに鋭くにらまれた。
もしやアンダー・ゲームで彼女の〈防護壁〉を〈防護壁〉で破ったことを根に持たれているのだろうか。
「……ま、一理あるか。よし、魔導師部隊は学生を使うから指揮はお前がやれ、シェラ」
「ええ!? 俺!? そんな急に言われても困るよ……!」
シェラの困惑などどこ吹く風。ディレットはさっさと校舎にいる学生を集めてこい、とノーブルを使いに出す。
学生魔導師が陽動している間に、ナキ救出班は定期飛行船で戦艦に乗り込むことが決まり、ディレットは通信で警備兵たちを準備に走らせた。




