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空気の破裂音が響いて砲撃がはじまったことを知る。ミグは口角を釣り上げた。戦艦から飛んできた大玉の魔弾も、瞬く間に数十発撃ち込まれるあられも、空中で破裂する爆撃も、ミグの壁は風ひとつ通さない。
「よくやった! お前は最高に上がる女だぜミグー! 全部終わったら一発相手し、ぐえ!?」
「ついに頭沸いたかこの腹黒首長」
「今そういう冗談が一番ムカつくからやめて」
なにやらわけのわからないことを言って抱きついてきたと思ったレゾンは、急にうめき声を上げてミグからどかされた。見るとルンが苛立ちげに杖で手のひらを打っている。その横でレゾンの首根っこをつまみ上げていた金髪男は、首長をそのへんの雪の上に放り投げた。
「ヴィン!」
最愛の友の姿にミグはパッと表情を明るくして、両手を伸ばす。手を振ってみせれば魔力を消耗しきって動けないと察したヴィンが、満面の苦笑で引き起こしてくれた。
「レゾン様! 今のふしだらな言動はなんなのですか。この非常時に不謹慎です!」
もうひとり最愛の友はどこかと思ったら、雪にまみれるレゾンを叱りつけていた。わなわなと震える背中がテッサの怒りを物語っている。そうか、テッサとヴィンはまだレゾンの正体に気づいていないのか、とミグは呼び止めようとした。
しかしそれより早くレゾンは乱雑に髪についた雪を払いながら深いため息をついた。
「姿が違えばちょっとした悪ふざけも通じない。下がる世の中だよなあ、ノーブル」
「さあどうでしょう。ノーブルはディレット様ほどギャップがないですから」
レゾンは秘書とにやにや笑いながら白いグローブを外した。ヴォルも上着の袖をまくり上げる。手のひらと腕に描かれた〈変身〉の魔法陣を見て、ミグは思わず「え」と声をもらした。
レゾンとヴォルが魔法陣を爪弾いて消す。するとふたりは白い光に包まれた。
魔法が解けようとしている。その光景にミグは、首長レゾンが地下の住人に変装していたのだと勘違いしていたことに気づいた。実際はその逆だ。首長こそ彼にとっては偽りの姿だった。




