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痛みで顔を起こされる。冷徹な黒と青の目がミグをじっと観察していた。
「希望を見出だしたのか? あんなのは極一部の同情意見に過ぎない。お前を救ったつもりになって一時の快感を味わいたい快楽者だ。お前が手に負えないとわかればまたすぐ切り捨てる」
ミグが下唇を噛むと、ノインは薄い唇に憐れみの笑みを浮かべた。
男の言うことは間違いではなかった。滑走路に集まった人々はリゲル国人口のほんのひと握りだ。その中の者だってまだ迷いと葛藤しているかもしれない。
そしてミグ自身、彼らの良心に応えられると言い切れなかった。この身の支配権は〈名もなき石〉にある。魔石がなにかの拍子に心変わりした時、ミグに対抗する術は今のところなにもない。
「この世は金や地位や場所を奪い合って成り立っている。それが自由だと、繁栄の礎だときれいごとを抜かして醜さから目を背けているんだ。我が総統閣下はそんな愚かな争いから人々を解放するため、国をひとつに統合なさろうとお考えになった」
まぶたの裏に主君の姿を見たかのように、瞬きしたノインは恍惚と頬をほころばせ、ミグを殴った手でまだ痛みの引かない米神をうっとりとなでていく。
「総統閣下のご遺志を継ぎ、ともにゴミを掃除しよう。それがお前の存在意義だ」
……シェラ。きっとこれは正しい答えじゃないけれど許してくれるかな?
ミグは輪郭をなぞっていくノインの手に噛みついた。すぐに忌々しく頭を殴りつけられるその間際まで食らいつき、引きちぎった革の残骸を倒れ込んだ地面に吐き捨てる。慌ただしくグローブを脱ぎ去ったノインの手は赤紫色にうっ血していた。
それを見てミグは満足の笑みを湛える。
「きみこそ醜さから目を背けていることに気づかないの? 目的のためにヴィンから自由を奪い、テッサから家族を奪い、ベガ国の人々の命を奪った。そして次はリゲル国だ。いつまでも愚かな争いをつづけるきみこそゴミだよ」
「なんだと」




