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王の叫びが響いた時、ミグは〈女神の祝福〉を解除した。急激に血の気が失われていくジタン王からテッサを引き剥がし、手首を掴んで走り出す。そのまま潜ってきた引き上げ戸に向かったところで、ちょうど出てきた兵士たちとぶつかりそうになった。
「テッサ様! ミグ殿!」
目をまるくした兵士たちの顔には見覚えがあった。たしかラッセンが率いる近衛兵だ。王妃の護衛から戻ってきたところか。ミグは司令室で起きたことを手短に伝えた。
「ジタン様の願いはテッサが生き延びることです。私たちは発着場に向かいます」
「ならば我々もお供いたします」
そう言ってうなずいた四人の近衛兵のひとりが、憔悴しきったテッサに目を向けた。
「テッサ様、ご安心ください。先ほど連合国のリゲル船団より、援軍が間もなく到着すると一報が入りました。これで避難した民たちも救えます!」
報告を聞いたテッサの頬にみるみる生気が宿った。手首から手のひらを握り直してミグは「テッサ」と呼びかける。温もりが確かな力で応え、友はひとつうなずいた。
「城の裏手へはバルコニーから屋根伝いに向かうほうが早いです。先導します!」
司令室の窓から繋がるバルコニーに出ると、右手の浮島から煙と炎が噴き上がっているのが見えた。右翼砲台だ。浮力を失い、徐々に落ちていく島へ帝国軍の戦闘艇は執拗な追撃をおこなっている。
砲撃がパッ、パッ、と瞬く度、浮島からバラバラと剥がれるがれきが流星のごとく夜の海へ吸い込まれていく。
「姫様、こちらです!」
白い石造りの柵に足をかけて待つ近衛兵の手を掴み、ミグとテッサは屋根へ飛び移る。その時、背後で大きな爆発が起こり、五芒星に覆われた向こうの夜空が昼間のように明るくなった。
ああっ、と近衛兵のひとりが悲痛な声を上げる。ミグとテッサも思わず足を止め振り返った。左手の浮島が燃えている。左翼砲台も墜ちた。もう領空の敵を払う手段はない。




