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ヴォルの合図で兵士のひとりが壁際のスイッチに着き、もうひとりが剣先をミグに突きつける。「おい」とヴィンが上げた抗議の声は、目も向けずに「うるさいですねえ」と苛立ったヴォルに遮られる。
「レゾン様のところにお連れするだけです。お互い無駄な時間と労力をかけないために抵抗はしやがらないでください」
〈六重・防護壁〉の前に歩み寄りながら、ヴォルは片手を振って剣を構えた兵士を下がらせた。圧迫感が少し薄れて、ミグは自然と肩に入っていた力を抜く。
カチリとつまみを操作する音とともにオレンジ色の壁は消えた。これも魔動機だったのだなとミグは思う。良質な魔石がいくつも採れるリゲル国だからこその〈六重〉という威力だろう。
ベッドに腰かけるミグにヴォルはためらいなく近づいた。片足にはめられた足枷も魔力を封じる断魔鉱製とはいえ、その大胆さにはミグのほうが驚かされる。ヴォルは持ち上げさせたミグの両手首に、こちらも薄朱色に鈍く光る枷をかけた。
「ちょっと重くなりやがりますよ」
質量が、という話ではなかった。片手に取りつけられた時点で枷の重さは感じていたはずなのに、もう片方の半月状の枷の噛み合わせがミグの手首を締めつけて留まった瞬間、上半身が折れた。
重いというよりは衝撃に近かった。誰かに硬いもので後頭部を殴打されたように意識が揺さぶられる。
これが魔力の流れを絶たれた感覚か。慌てて駆け寄ってきたテッサにも影響が出ることを恐れて、とっさに触っちゃダメと叫んだ。しかし重苦しさはヴォルが鍵で足枷を外したことでだいぶ軽減された。ミグは思わず深い息をつく。
ふたつの相乗効果か断魔鉱の含有率の関係かわかりかねるが、改めてとんでもない鉱石だと思い知る。魔力の流れは血液と同じ、どんな生物の体にも巡りその生命活動を助けている。常人ならおそらく重い倦怠感で済むのだろうが、生命維持を魔石の化身〈名もなき石〉に完全依存しているミグにとっては致命的効果だった。




