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ゼクストの体とその魂を苦しめた人造魔石がナキの〈レティナ〉にも使われていたと知り、ミグは拳を握る。どうあってもナキを利用した首謀者は野放しにできない。
――わかった。きみは出なくていいよ。私の見た目だけ変えて。
〈名もなき石〉から返事はなかった。だが胸の奥から暖かな一陣の風が吹いて、ミグの髪を揺らす。踊るひと房を捕まえて黒が赤に染まっていることを確かめると、ミグは腕を組んでふんぞり返った。
「やっぱり少しだけなら話してやらんこともないぞ」
そんな偉ぶった覚えないわ、と内側から胸を小突かれてミグは内心ぺろりと舌を出す。とりあえず偉そうにしていればそれっぽく見えるだろう。
ミグ? とおそるおそる声をかけてきたテッサにミグはウインクを飛ばした。小首をかしげて迷っているナキの横でヴィンは呆れたため息をついた。
「娘よ、この赤の魔導師に話したいこととはなんだ?」
ミグはもっと雰囲気が出るように声を低くした。鏡がなくて目の色を確認できないのが不安だが、自信に満ちた表情を繕ってナキの顔を覗き込み怪しく唇を歪める。
ぱちくりと瞬いていたナキの目はみるみる喜色に染まり、飛びつくように〈防護壁〉を叩いた。
「あのね、ナキといっしょに来てほしいの。そしたらね、いっぱいほめてもらえるんだよ」
「誰に褒めてもらえるんだ?」
「お父さんだよ!」
すでに褒められるところを想像しているのか、まろい頬をわずかに上気させてナキは本当にうれしそうだった。
ずっと行方知れずか、ナキを置き去りにしたと思われていた親の存在を知り、テッサの息を詰める音がかすかに届く。実子を道具のように使う親ならまだいないほうがましだったろうか。それともナキが親だと思い込まされているだけか。
ミグはちらりとレゾンをうかがった。食い入るような眼差しで首長は、つづけろとうなずく。
「お前の父親は何者だ」
小首がこてんと傾く。漠然とした質問をしてしまったことにミグは反省し、代わりの言葉を探した。決定的な確証が欲しいが、幼いナキでも答えられる質問でないといけない。




