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その時、ひと際大きな砲撃音が落ちてきて、司令室の壁や床がびりびりと震えた。そういえば外の喧騒が先ほどよりも近づいている気がする。〈五聖塔〉の力が弱まっている証か。それを帝国軍に気づかれてはいよいよ時間がない。
「逃げなさい、テッサ、ミグ。城の裏に飛空挺の発着場がある……。〈五聖塔〉がまだ生きているうちに……!」
ジタン王はそう言うや否や、激しく咳込んで吐血した。テッサの〈女神の祝福〉が発動を保てなくなり光を失う。幼なじみは父の体にすがり、首を横に振っては「いやだ」とくり返した。
「ご報告します! 帝国軍の新たな戦闘艇が接近! 我が軍の右翼砲台は先の砲撃により崩壊寸前! 死傷者数不明です!」
そこへ司令室に飛び込んできた兵士は、部屋の惨状に気づき困惑の声をもらした。説明を求めるようにラッセンの亡骸からジタン王へ目を転じて、今度こそ言葉を失う。途方に暮れた目は父王に抱きつくテッサを見て止まった。
「く、そ。どこまでも薄汚い帝国め……。時間が、ない……ミグ、いけ……!」
力を振り絞り持ち上がったジタン王の手に突っぱねられてミグはよろめく。
「しかし! 病院には王妃様が! それに国民のみんなも!」
「わかっている! これは俺のわがままだ! 王家の責任は俺と妻の命で勘弁してもらう……! 頼む……!」
血を吐きながら紡がれる王――いや、ひとりの父親の切望にミグはなにも言えなかった。ジタン王の悔恨と罪への痛みは、はっきりと頬を伝う涙となって表れている。
「それならば私もともに逝きます! 民を見捨ててなにが王家ですか!」
父の胸元からテッサも王族の矜持を見せる。その瞬間、ジタン王は微笑んだ。我が子の成長がうれしくて仕方ないと思わずこぼれたような笑みだった。
愛情が深い分だけせめて娘だけは生きていて欲しいと願う。際限なき愛に満たされた娘も、ともに生きられぬのならこの瞬間の幕引きを乞う。その根元にある情は同じ色をしている。
「ミグ! 誓いを果たせえっ!」




