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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第6章 居場所
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「ぐうた! 起きろぐうた! こんなところ脱出するぞ!」


 なにかを叩くかしましい音に重なって男性が喚いているのが聞こえる。震えたまぶたに押されたものがミグの目尻をなぞって耳に落ちた。ほんのり冷たい。


「いい加減諦めたまえ。〈六重セクステット防護壁シールド〉は人の手でどうこうなる代物ではない。片腕も失いたいのか? それと脱獄計画ならもっと内密に進めるように」

「うるさくて敵いませんね。こいつは拘置所に戻しましょうか」


 いじわるな声が冷ややかに響いたあとを薄ら笑いが引き継いで、硬質な靴音が近づいてくる。ミグはにわかに焦燥が募り、目を開けようとして失敗した。誰かが眠っている間にまぶたをのりでくっつけてしまったかのように動かない。

 思わずうめいた唇はかさかさで、のどはひりつき渇いている。寝返りもままならないほど全身は倦怠感が巡り、ひどい気分だった。頭が鉛でも詰まっているかのように重く鈍い。そうこうしているうちに横手の喧騒はふたりの男性が言い争うものへと変わった。

 叩く音がやんだ代わりに「離せ!」と怒号が飛び、「大人しくしやがりください」と苛立つ声が一蹴する。

 その人を連れていかないで欲しい。胸を掻きむしりたくなる衝動がミグの呼吸を早める。


「手荒なことはやめてください、ヴォル様。ヴィン様の身は世界会議で保障されたのではなかったのですか」


 その時、凛と響いた女性の声にミグは息を呑んだ。


「テッ……」


 声が出ない。舌が言葉を忘れるほど長く眠っていたというのか。ミグは感覚もあいまいで自分のものではないような手でベッドマットに爪を立てた。すぐそばにいるのに、意識は起きているのに、それを知らせる力が残っていない。


――待て待て。今そっちに少し魔力を流すんだな。


 ふいに頭の中で声が響いた。自分の声に似ていた気がする。すると突然、胸の真ん中がぽかぽかと温かくなって、それが血が巡るように手足の先へ流れていくのがわかった。

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