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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第1章 戦禍の再会
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「口を開かないで! ミグとふたりなら間に合う!」


 テッサは引き下がらない。できあがった魔法陣を剣で叩いて発動する。ミグも言葉だけで諦めるなんて考えはなかった。


「〈女神の祝福(ララ・セラピア)〉」


 毎日毎日ひたすらに防御と治癒魔法だけを磨いてきたミグは、外側の円環を指で描いただけで、練り上げた魔力を魔法陣の軌跡通りに走らせる離れ業を習得していた。みるみるうちに発動した〈女神の祝福(ララ・セラピア)〉の紫の光がジタン王を包む。

 しかし魔法陣の回転が錆びた歯車のように鈍くなると同時に違和感を抱いた。手応えがない。魔力が相手の体に染み渡っていくいつもの感覚がなく、患部に届く前に押し返されているようだ。

 ミグは内心で舌打ちし、〈女神の祝福(ララ・セラピア)〉の魔法陣を二回叩いて〈三重トリオ〉に切り替える。光が紫から水色へと変わった。


「ミグ! それ以上はできないの!?」


 同じように手応えが掴めず焦るテッサの声が飛んできた。


「〈三重トリオ〉より上は、ジタン様の体が耐えられないと思う」


 弱った体に大量の魔力を送り込む行為は危険をはらむ。対象者の体は高い熱を発し、呼吸困難や意識障害へとさらに事態を悪化しかねない。現にジタン王の額には大粒の汗が浮かんでいた。治癒魔法は対象者の体力も必要だ。本来ならば長期間かけて休み休みおこなうべき魔法だった。


「テッサ、もういい……」

「やめないわ! なにを言われたってやめないから!」

「ミグ、聞いてくれ……」


 頑なに叫ぶテッサに微笑みかけた目をミグに移して、ジタン王はかすれた、しかしこんな時までおだやかな声で語りかける。熱のせいか、テッサと同じ若葉のように明るい緑の目には涙が浮かんでいた。


「この剣は、〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉まで届いている……。小さなひびだが、帝国の猛攻はこじ開けてくるだろう」

「そんな……」


 ジタン王の血が滴る剣を見てミグの魔法は乱れた。王城地区を覆う五芒星の白壁が最後の頼みだ。ラッセンにつづきジタン王のともしびも消えかかっている今、〈五聖塔ルクス・ペンタグラム〉を失ってはベガ国に戦う術はない。

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