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袋いっぱいに溜めた空気が破裂するようにレゾンは笑った。上向いた気分が赴くままに再び階段を下りはじめる。
「なるほど。なるほど。では私が王座に居座りつづけるには、不老不死の霊薬を手に入れるしかないわけか」
そんな薬は聞いたことも見たこともない。レゾンの冗談だった。しかし、オレンジ色の光が覗き窓からもれ出る鉄の扉が現れた時、ヴォルの声がぽつりとつぶやく。
「世界の歴史を変える力を秘めた〈神の意思〉ならあるいは」
「おっと」
地下の底に辿り着いたレゾンは、最後の一段を下りようとしていたヴォルを阻むように振り向く。
「思わず欲しくなることを口にするものではないよ。傲りと欲望は今ここで捨てたまえ」
〈六重〉の明かりにぼんやりと浮かび上がるヴォルの顔は、じっとレゾンを見つめたままグローブの手の甲に描いた〈鬼灯〉の魔法陣を消す。あわい魔法の輝きが失せた手は懐に差し込まれ、今度は小銃を握って現れた。
魔力を弾として放つ魔銃ではない。管状の弾倉に入った薄朱色の弾丸をちらりと確認し、ヴォルはその重みを確かめるように両手で包み込む。〈神〉と対峙する供として一丁の拳銃は頼りないを通り越しもはや無謀だった。
しかし愚者は華やかなパーティーにでもくり出すかのように高らかに笑う。
「さあ行こう。〈神〉と対話を試みたはじめての人間という栄誉をともに掴もうじゃないか」
「しれっとテッサ様のことはなかったことにしてやがりますね」
ボルトを引いた銃を片手に構え、ヴォルは前へ進み出て扉に手をかける。寄越された視線に応えレゾンはひとつうなずいた。
ぐっと力を込めたヴォルの腕に押され扉が重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。と、心音に似た低い音が聞こえると気づいてレゾンは薄く笑みを浮かべた。先に中へ身を滑り込ませたヴォルにつづいて地下独房へと踏み入った。




