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テッサ王女も要注意人物だ。破滅を呼ぶ爆弾なんて抱えていたくはないが、知らぬ間に持ち出されても困る。
さっそく監視役の手配にとヴォルが下がると、部屋は静まり返った。ナキの身の回り品をテッサが使っている貴賓室に用意させていいか確認だけして切り上げようと思った時だ。テッサが、もうひとつ尋ねたいことがあると言う。
「地下についてです。あそこは一体なんなのですか。あそこにいる方々は何者です?」
レゾンはあごをさする。地下の歴史はリゲル国の歴史でもあった。
「ひとことで言うならガス抜き場だ。あそこにいるのはほとんど、リゲル国民だよ」
「ですが、市場に出回るはずのない我が国の剣が取り引きされていました」
「ジタン王からゆずり受けた中古品でね。他にも連合各国から不要になった装備を回してもらっている」
父親の名前を聞いてテッサは目をまるめ、心底不思議そうに首をかしげた。
「なぜそんなことを?」
「我が国民は血の気が多い。傭兵の気質がどうも脈々と受け継がれているようだ」
ますますわからないといった顔をする由緒正しい王女に、レゾンはにやりと笑みを深める。
「初代首長ハットリ殿は将軍を辞めて傭兵をはじめた変わり者だったそうだ。彼を慕い、やがて人が集まり傭兵集団となったその者たちは、世界大戦での功績を認められひとつの浮遊大陸を与えれた。それがここ、リゲル国だ」
その時、まぶたが重そうな目をこするナキに気づき、レゾンは用意していた長い文章を消した。代わりにもっと噛み砕いた言葉を軽やかに口ずさむ。
「つまり、元々はみ出し者同士の寄せ集めということだ。話し合いでひとつにまとまることは非常に難しい。だから気に食わない人間や意見に力で抗議する決闘場が地下に作られた。それが今につづく地下とゲームの起源だ」
「ゲームのことも存じているのですね」
「もちろん。私のところにもしょっちゅう招待状が送られてくるのでね。人気者は辛いな」




