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唐突とも言える色よい返事にレゾンは面食らい、ヴォルはつまらなそうな顔をした。もっと難色を示されたり、非難の言葉を浴びせられたりすると覚悟していた。だが、どこか吹っ切れているようにも映るテッサをついまじまじと見つめる。
「元よりきみに任せるつもりだったが、本当にいいのか?」
「帝国の残党に構っている暇はありませんので。私は亡き父に代わってベガ国女王として、連合国議会を召集するつもりです。そして会議にはミグを供に連れてゆきます」
ヴォルがブタのように噴き出した。凍りつく円卓とそこに座る五大国の代表たちを思い浮かべて、レゾンの目元はひくひく震える。しかしその奥で若きこの王女をおもしろいと心震わせているのだから、ヴォルの態度を責められない。
「勇ましいのは結構だが、それをされると私の立場がなくなる」
「それがなにか? ミグのことで文句を言う五大国を黙らせればレゾン様の責任もなくなりますわ」
視界の端でヴォルが自分の額をこつんと叩く。一本取られましたね、じゃない。
どんなにミグのことで心を痛めていようと、レゾンには守るべき民がいる。その民は今、限りなく危険にさらされている状態だ。世界を変える大いなる力を秘めたミグがいる限り、リゲル国は帝国の残党や欲望のにおいを嗅ぎつけた輩に狙われつづけることになる。
そして下手にミグをかばうことは、連合軍に砲口を突きつけられる事態になりかねない。
「テッサ王女。きみはそれでいいのだろう。だが私はきみの味方にはなれない」
「ええ。私の邪魔をしないで頂けるならそれで十分です」
「茨の道だぞ」
「覚悟の上です。ミグを守るため命を懸けることにためらったりいたしません」
まぶし過ぎる若き王女の眼差しを避けて、レゾンは目を伏せる。ミグを手にかけたらあの目は憎しみと怒りに染まるのだろう。友の娘に恨まれるなんて損な役回りを引いてしまったものだ。
いっそ今からでも本来の引き取り先だったトリックスターに押しつけようか、と現実逃避しているとヴォルが目配せしてくる。その視線はテッサとレゾンを交互に映した。レゾンは黙ってうなずく。




