249
「レゾン様。ミグはきちんと食事をとっていますか」
食べてもいない魚の小骨がのどに支えているような話し方だった。レゾンはナプキンで口元を拭い、午後の公務も考えて白ぶどうジュースに留めたグラスへ手を伸ばす。
「もちろんだ。食事や身の回りのことは不自由がないように手配している。きみと同じく食欲は少々落ちているが、スープはしっかり飲んでいると聞いている」
まあ嘘だが。その言葉をレゾンはジュースといっしょに飲み下した。政治家は息をするように嘘をつくからいけない。などと、冷めた視点で自分を見ながらレゾンは微笑を浮かべる。
しかし対面する少女もまた政界に身を置く側の人間だ。花も恥じらう笑みを返し「そうですか」とうなずきつつ、その声は少しもうれしそうではなかった。
「ミグに伝えてください。やせてたら怒るからね、と」
「構わないが、きみから直接伝えたほうが彼女も喜ぶだろう」
「会えるのですか!」
深緑色のフリルつきテーブルクロスに彩られた食卓は、勢いよく立ち上がったテッサに驚いて食器をガシャンと揺らした。大きな物音を立てたことを恥じて、王女は小さく謝りながら席に戻る。
気にしていないとレゾンはグラスを勧めることで示して、乾杯の代わりに杯を掲げてみせた。ほのかに黄色がかった水面がたぷんと揺れる。
「数日後には面会できると約束する。ヴィンも連れていこう。でなければあの男は勝手に忍び込みかねない」
最後につけ加えた冗談はテッサの頬をほころばせることに成功した。いやそれは、ミグとヴィンの力だったのだろう。
大事な娘がここまで心を開くほど、ジタン王はミグの存在を許していた。その心は〈レティナ〉のあの映像を見ても変わらなかっただろうか。
「レゾン様、もうひとり会わせて欲しい人がいるのです。ナキさんは今どこでどのように過ごしていますか。〈バックトゥバック〉の方々に連絡は取って頂けたのでしょうか。なぜ……なぜ彼女まで連れてくる必要があったのですか」




