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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第6章 居場所
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 つまらない議会を早めに切り上げて、ふらりと首長官邸に舞い戻っては昼食に誘ったレゾンを、テッサはきっと怪しんだことだろう。しかし破天荒な盟友王に育てられた割りに、気品と愛嬌に愛され立派な淑女へと成長した王女は慎ましく誘いを受けた。

 気まぐれと見せかけて前々からこの昼食会を考えていたレゾンの手筈通り、前菜には鳥の旨みと野菜の甘味だけで仕上げたテッサ王女気に入りのブイヨンスープ、根菜とハーブをライスペーパーで包んだサラダが並ぶ。

 そして満を持して白パンとともに運ばれてきた主菜は、白身魚のバターソテーだ。とろけ出すバターのせせらぎから、穀物を醸造し発酵させたソースのコクと花やかな香りが立ち昇る。わずかにスッと鼻腔を抜ける清涼感ははちみつだ。

 桃色のまさに花を彷彿とさせる可憐な貴賓きひんに合わせた素晴らしい一品だった。レゾンはあとでコック長を褒めてやろうとひっそり心に書き留める。

 魚は富の象徴だ。浮遊大陸群において魚といえばひと昔前までは川魚を指す言葉だった。ちょっと足元を見れば大海が広がっているのだがいかんせん、波が荒れてとても漁ができる環境ではなかった。

 どんなに風のない日でも、おだやかに見えても、人間が海に下りたとたん海面が盛り上がるものだから、人々は海には冥府の荒神あらがみがいると信じ近寄らなくなった。

 しかし日夜、人間は歩みを止めず飛空艇技術や魔法学は飛躍的に発展している。その賜物か、海での漁もそれほど危険ではなくなりつつある。海の幸が一般家庭のなんでもない日常の食卓に並ぶ日もそう遠くはない。


「テッサ王女、魚は嫌いだったかな」


 そんなことはないと知りながら、レゾンは苦笑をにじませた。ジタン王から、うちの娘は好き嫌いしないんだ偉いだろと自慢されたことを覚えている。ましてやこの心やさしい姫が、コック長や給仕たちを悲しませるまねをするとは思えない。

 けれどテッサはナイフとフォークを手にしたきり、上の空で皿に乗った高級料理を見つめていた。スープもどこか飲みにくそうにしていたな、と考えているとテッサはついにカラトリーを置いてしまう。

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