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知りたがっている情報をあっさり渡すと、ヴィンは拍子抜けした顔でレゾンを凝視した。
しかしすぐに目を背けて下唇を噛む。眉間に寄ったしわはなかなか頑固だ。
「てめえは信用ならねえ。そうやってぐうたを飼い慣らし、今度はてめえが政治の道具に使うつもりだろ」
「帝国がそうしようとしたように、か。ふむ。やはりベガ国を襲った理由は彼女か。きみは識別番号一三九の回収を命令されたんだな?」
「あいつを番号で呼ぶんじゃねえ!」
レゾンは怪しく光るヴィンの眼光から視線を外さないまま、横の覗き窓に向かって軽く手を挙げた。壁の向こうで身構えた魔導師の息遣いがかすかに届く。
「座りたまえ。ここで暴れてもお互いなんの得にもならないときみだって理解しているだろ」
「俺が死ねばめんどうごとがひとつ消えるんじゃねえのか」
「確かに」
つい口が滑った時には、蔑む視線が浴びせかけられヴィンとの亀裂がさらに深まっていた。底知れぬ谷から吹く冷風を肌に感じながら、冗談だと言ってみる。だがまったく手応えがない。
レゾン様は目が笑ってないんですよ、といつか秘書ヴォルに言われたことを思い出しながら、レゾンは米神をもんだ。
「以前にも言った通り、きみには戦争の件でなんらかの罪に問うつもりも、ましてや処刑するつもりもない。まあ諸々の手続きや各国への報告をめんどうだと思っていることは認めよう」
「おい、本音をぶっ込むな」
「だが帝国の残党兵は例外なくその降伏を認め、身柄を保障すると連合国会議で決定している。きみは、望めば家族の元に帰れる。その〈レティナ〉に記録された映像の精査も済んでいるのでね」
言いながらレゾンの脳裏には連合国会議の光景がよみがえっていた。会議室を取り囲んだ炎の海、その渦中で兵士とテッサ王女の体が点々と転がる先に、異形の腕を生やした少女は微笑みを浮かべていた。
五大国の王と女王の目は驚愕と恐怖に染まり、やがて嫌悪へ変わった。レゾンも例外ではなかった。リゲル国はベガ国と古くから親交があり、同じ中国が帝国の魔手に墜ちた事実はとても他人事ではない。




