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リゲル国北部に位置する行政特例区内警備隊本部地下一階にて、取調室の重厚な扉が閉まる音を聞きながらレゾンはイスに腰かけうつむく男を見やった。
伸びるままにした男の金髪はほつれ、後ろでひとつに束ねていた髪結いひもはほとんど意味を成していない。しかし男ヴィンは片腕の身となったせいで髪も満足に整えることができなかった。
ただ無情に余った袖を垂れ流すだけの右腕に目を留めていたレゾンはふと、視線を感じて顔を起こす。そのくたびれた袖と同じように乱雑に下がった髪の間から、水色と紫の眼光がレゾンを射抜いていた。
やれやれ。ため息は内心に留め、にこやかな笑みと明るい声を意識する。
「やあ。あれから二週間か。腹の具合はどうかな。内臓が飛び出ていなかったのは不幸中の幸いだ。正しい位置に中身を戻す手間が省けたからな」
室内はシンと静まり返った。これが警備兵相手なら今頃どっと笑い声に満ちていたはずだ。
魔法による治療が確立され死亡率が減少してからは、このような悪い冗談も笑って許される時代になった。だが笑えない傷――手足の欠損など治療不可能な傷を負った男にはウケが悪かったらしい。
レゾンはヴィンの刺々しい怒気を散らすことを諦め、向かいの席に座った。もうすべて情報は頭に入っているが、形だけ持ってきたファイルを開けて読むふりをする。
「きみはベガ国で人造魔人にされた第六艦隊将軍ゼクストと行動をともにしていただろう。なんと命令されたんだ?」
少し待ってみるが返事はない。目を向けるとヴィンは今ようやくレゾンの声が届いたかのように顔を上げた。
「人造……なんだって?」
「なるほど。そこからか」
「くそ。待てよ。こっちはぐうたと姫さんとおじょうちゃんの状況がわかるまでなにも喋らねえからな」
「テッサ王女とナキは私の官邸で手厚くもてなしさせてもらっている。ミグはきみと同じこの施設内にいるよ。監視と断魔鉱の拘束つきだが」




