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「ミグはどうするおつもりですか。返答によっては同行を拒絶いたします」
なんとか声だけは対等であろうとするテッサの虚勢を見破り、レゾンは微笑む。それは氷のように冷たく美しい笑みだった。
「もちろん地下牢送りだ。今こそ間違いを正そう。テッサ王女、いくらきみの願いでもこのような怪物を野放しにするべきではなかった」
「ちょっと! 話が違うじゃない」
「レゾン様どういうおつもりですか」
レゾンの言葉にテッサとヴィンより驚いたのはルンとホッパーだった。ふたりの間で波立った波紋は地下全体まで広がり、さわさわと上層から話し声が降り注ぐ。
この闘技場がミグの処刑場だ。ヴィンどころかレゾン以外のこの場にいる全員がそう思っていた。ところが首長は土壇場で考えをねじ曲げたらしい。
どこまでも食えない男だ。毒づくヴィンの意識が急速に閉じようとする。まだだ、まだレゾンの意図がわからない。と、しがみついてみても、ミグが今すぐ殺されるわけではないと知った安堵に浸り、体はもうぴくりとも這い上がれなかった。
レゾンの耳を引っ張り詰め寄るルンから、ヴィンは視線を横たわるミグに移す。
もう約束なんかしない。かすかに上下する胸元に誓いを立て、ヴィンの意識は遥かな闇に落ちていった。




