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ミグは胸元の服を握り締めた。振り返れば森を焼失させておいてなんの咎めもないなど不思議な話だ。事件後もミグとゼクストが地下水路のダウンタウンで慎ましやかな生活をつづけられたのは、ジタン王がかばってくれていたからだ。そこにはテッサの嘆願もあったかもしれない。
「ミグ、きみは証明しつづけなければいけない。その魔法の力が傷つけるためではなく守るためにあると」
ミグはもう一度テッサを振り返った。すると幼なじみもまたこちらを見ていた。緑の目がミグと交わって不安げに揺れる。そのやさしい眼差しに、王の寛大な心に、知らず知らず守られていたことに今日気づいた。
ゼクストの分も含めて私にはこの想いに応える義務がある。
そして、力を持つ者として人々から信頼を得なければならない責任を胸に、ミグは王の前にひざまづいた。
「必ず、テッサ様をお守りしジタン様の期待に応えると誓います」
そっと肩に置かれた手にうながされ顔を上げる。そこにはにやりと口角を上げたジタン王の笑顔があった。なぜだろう。血の繋がりなどあるはずもないのに、この方は亡き父とよく似た笑い方をする。懐かしい声が、それでいいんだと耳元でささやいた気がした。
しかし、ふと目を起こしたジタン王の顔から笑みが消える。「どうした? やけに早いな」と声を向けた方角から鉄靴の重々しい足音が聞こえてミグも振り返った。王立病院に向かう王妃の護衛を頼まれていたはずのラッセンがそこにいた。
王の問いに対しラッセンは「王妃様の護衛は部下に任せました」と言って笑う。その笑みは陶磁器人形のように硬く温度が感じられない。なにか緊急事態が起きたと見て眉をひそめるジタン王のかたわらで、ミグはひとり帝国兵がもたらすものとは別の恐怖に身を強張らせた。
「それよりも私にはやるべきことがありますので」
言葉尻とともにラッセンの身が深く沈み込む。次の瞬間、接近を許すなと本能の怒号がミグを叩いた。ミグはとっさにジタン王へ手を伸ばす。だが王の大きな手がそれを遮った。ミグの手が戸惑いに揺れた時、ぶつりとなにかを裂くかすかな音が耳に届く。




