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ミグを心配しての行動とは少し様子が違った。まさかこれもレゾンの策略なのか? その思考を遮るかのように、ひと足早くミグの元に辿り着いたナキを〈六重〉の〈防護壁〉が囲む。誰が魔法を放ったかなんて想像するまでもなく、タヌキ魔導師めとヴィンは腹で毒づいた。
「赤の魔どーし! 赤の魔どーし!」
しかしナキはまったく動じず、オレンジ色の壁に張りついてぴょこぴょこ跳ねる。
「ねえねえ。ナキといっしょに来て! ねえねえ!」
懸命に呼びかける様はミグ――いや、髪と目が赤く染まった魔導師以外眼中にない。壁を叩いて大きな声で注意を引こうとする姿はナキらしくなく、ヴィンが薄ら寒いものを感じた時だった。
「なに見てるの。その目で見ないで。虫酸が走る……!」
苦しむ息の合間から低く吠えたミグは、憤怒の炎でネットを焼き切る。最後に残った小指の先端から鋭利な赤い爪が生え、ナキに向かって振り上げられた時、ヴィンはミグと〈防護壁〉の間に体を滑り込ませた。
どろどろになる寸前まで熱せられた杭が脇腹を貫いた。のど奥からひきずり出される悲鳴を、ヴィンは歯を食い縛り油汗を浮かべて耐える。いっそ手放して楽になりたいと叫ぶ意識を意地でねじ伏せた。
「どーしたよ、ぐうた。おじょうちゃんの顔、忘れたわけじゃ、ねえだろ」
かすむ視界の中からにらみ上げてくるミグに、ヴィンはいつもの軽口で話しかけ震える口角を釣り上げてみせる。
「やめてよ。きみだってさっき『危ない』って言ったくせに。私を危険視してるんでしょ!」
なんだ、しっかり聞こえてんじゃねえか。そう思ったらやたらおかしくて腹がひくひく跳ねた。お陰で痛みが倍増だ。痛みにかおかしさにか、自分でもよくわからない涙を目の端に溜めて、ヴィンは視線であたりを示す。
「そりゃそーだろ。こんだけ銃向けられてる中に突っ込んでいったら、誰だって危ねえ」




