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「やはり軍人ではないきみに頼むのはずるいか」
「いえっ。私もそのつもりでした。ですがテッサが私は戦ってはいけないと。それがゼクストの願いでもあると言うので、ジタン様も同じお考えかと思っていたんです」
子どもの頃、ドラゴンの襲撃をかわすため森林地区の半分を焼き払ったミグにゼクストが言い聞かせた言葉を、ジタン王も覚えていた。王は懐かしむように「ああ」とうなずいて微笑む。
「そういう意味ならあいつは、魔法は一切使うなと言ったはずだ。だが攻撃魔法だけを禁じたのは、ミグにとって魔法は諸刃の剣だとわかっていたからだ」
「どういう意味ですか」
ジタン王は向き直りミグの両肩を掴んで目を覗き込んだ。
「魔法を、誰かを傷つけるためではなく、守るために使って欲しいと願ったんだ。それがミグ、きみの希望になると信じて」
魔法で誰かを守ることが希望ならば、その反対を考えてミグは怖々と口を開いた。
「では、攻撃魔法で誰かを傷つけた時は、絶望……ですか?」
「いや……。なにもしなかった場合もそうなる可能性が高い」
え? 聞き返さずにはいられなかった。手を離し、前へ向き直ったジタン王の目を追いかけて一歩詰め寄る。なにもしない。ただ静かに暮らしていてもいけないというのか。
ジタン王はしばし言葉を選ぶような間を置いた。
「きみは悪くないのだが、きみの立場はなにかと誤解されやすい」
真っ先に浮かんだのはプロキオン帝国出身という生い立ちだった。ミグには帝国で過ごした思い出などなかろうと事実は変わらない。しかし次の瞬間、脳裏に鮮烈な赤が弾けて、そんな経歴は些細なことに過ぎないと思い直した。
森林地区半焼事件が王城でどう処理されたかなど、当時九歳だったミグには考えも及ばない。だが、国民にはドラゴンの仕業だと言い逃れできても、大臣、将軍各位には真実が伝えられたはずだと今なら想像できる。中にはミグを危険視する意見もあっただろう。




