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ぐうたら魔導師の余生  作者: 紺野真夜中
第5章 バトルロイヤルの急変
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 白衣の人物が軍人に命令して、ぐったりした少年を囲む〈防護壁シールド〉を一部だけ解除させた。その際軍人は薄朱うすあけ色の盾を装備して、光の壁をまるで垂れ幕のように潜り抜ける。きっと壁の赤い拘束具と同じ素材が使われているのだろう。そして赤いそれには魔力を無効にする力を秘めている。

 軍人に抱えられても声を出す力もない少年へヴィンは手を伸ばす。しかしなにも掴めない。この日を最後に少年が戻ってくることはなかったと知っていても、ただ黙って見送ることしかできない。


「あの実験で、みんな死んだ……」


 階段を挟み、左右三つずつ飾られた箱たちを見上げる。その中でひざを抱えた少女、四肢を投げ出した少年、顔を覆いすすり泣く小さな男の子の姿が、ひとつ、またひとつと消えていく。

 映像が暗転することはないが、何日も時が進んでいるのだろうか。この部屋には時計も窓もなく、時間の流れがわからない。

 子どもたちが連れていかれる先をヴィンも知っている。手足の拘束具がついた手術台のある部屋だ。そこでたくさんの管に繋がれて、その管を通りなにかが自分の体に送り込まれる。それは紫からはじまり、青、水色、緑と色が変わっていった。

 重ねがけした魔法と同じだ。つまりあれは高い魔力に地ならしさせ、のちに魔動機を埋め込むための下準備だった。そうして帝国は魔動機兵を造り出し、戦力強化を目論んだ。


「いや、狙いは最初からひとつだったのか。やつらは器を探していたんだ」


 長く伸びた自分の黒髪をつまんでいじっている少女を見つめる。少女につけられた「一三九」という識別番号から考えて、同じような飼育小屋は他にもあったのだろうが、この部屋で最終的に残ったのは自分と少女だけになっていた。

 ふと、少年時代の自分がひざを擦りながら少女側の壁に近寄った。ああ、この日か。脳裏を流れていく無感動な独白とは裏腹に、ヴィンの目は在りし日の映像に吸い寄せられる。

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