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正気を失った父の監視役という立場でも構わない。
ふと、その時過った予感にミグはじっとテッサを見つめた。
「ミグ? なんなら開けるのは別の日でもいいんじゃない? 今日は疲れてるし」
気遣うシェラのやさしい眼差し、ふわふわの髪、まだ幼さの残る顔もミグはひとつひとつ見つめる。
「ありがとう、シェラ。でも今開けないと私、どんどん怖くなっちゃうと思うから。みんながいる今開けたい。みんなに、そばにいて欲しい」
「無理してない? 少し顔色が悪いように見えるわ……」
テッサのすらりとした手が頬をなでる心地よさにミグは懐く。目を閉じてずっとずっと、この手を覚えていたい。親友がそうと察したように、ミグだって言葉にしなくともテッサが心配したのは顔色だけじゃないとわかっていた。
「ゼクストの運命を知ることは、私の運命も変える予感がしたんだ。だけどだいじょうぶ。もうどんなことがあったって、テッサとの繋がりを見失ったりしないから」
「逃げても、いいんだぞ」
ここまできて身勝手なことを言うのがヴィンなりのやさしさだとわかってきた。ミグは小さく笑って「どこに」と首をかしげてみせる。自由で、気ままで、飾らないヴィンの前では、ミグ自身もいつの間にか自然に本音を口にしていた。
「逃げたいなんて思わないよ。ゼクストのことはどうしたって放っておけない。それに私の居場所はみんなの目にあるんだから」
「目?」
きょとんと瞬いたヴィンにミグは歩み寄る。難なく会話できる距離を越えて、手を伸ばせば届く隙間を埋めてもっともっと、身を寄せ顔を上げかかとを伸ばし、その水色の瞳を覗き込む。
「きみが私を見つめた時、きみの目に私が映る。そこにいる私を見て私は、ここにいるって実感する」
鼻先が触れそうな近さにヴィンが慌てて身を引こうとするものだから、ミグは腕を引っ張ってやった。身仕度を手伝ったあの朝のように、重心が崩れたヴィンをミグはにやりと笑ってかわす。




