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リゲルは連合に属する国のひとつだ。しかし、暗号化された文章でミグが理解できたのはその単語だけだった。あの動揺ぶりを見る限りラッセンには、ふたつとひとつの宝に心あたりがあるらしい。武器か? なんらかの作戦名か?
だがなぜ帝国の暗殺者が、あんなメモを持って敵陣に斬り込んでくるのだろう。
「どうした。硬い顔をしているな。戦が恐ろしくなったか?」
ふと、やわらかい声をかけられて顔を上げるといつの間にかジタン王の前に立っていた。一瞬ぽかんとしたミグは、勢いよく首を横に振って気を引き締め直す。帝国にどんな意図があろうと当代一の賢王、その腹心として認められるラッセンに任せておけば大事ない。
ミグはしかと王の目を見つめ返しきっぱりと言った。
「いいえ。第一防衛線での戦闘で自分の魔法に自信を持ちました」
「そうか。それを聞いて安心した。実はミグに頼みたいことがあるんだがその前に」
ジタン王の目がくるんと横へ流れる。そこにはぶすりと頬をふくらませたテッサがいた。
「テッサ。席を外しなさい」
しかめ面のままだったがテッサは「はーい」と大人しく下がる。その背にジタン王は「盗み聞きしちゃダメだからな」と釘を差した。弾かれるように振り返ったテッサは、姫とは思えない形相で父親をにらんでいた。
ジタン王にうながされミグは円卓を回り込む。背に添えられた王の手がミグを〈五聖塔〉の一柱の前に導いた。
「頼みがある。これは王の命令ではなく、父親としての願いだ」
柔和な笑みを消し去ってテッサの父は神妙に声を潜める。ミグは思わず彼のひとり娘を見やった。壁を向いて佇むその痩身を目に入れると、またどうしようもない焦燥が胸を焼いた。
「ミグ。その魔法でテッサを守ってやって欲しいんだ」
明滅する白光を見つめてジタン王がこぼした言葉にミグは驚いた。その反応は予想していたのか、ジタン王はふっと短く笑って視線を下げる。




