214
敗北を認めていっそう凶悪に燃え上がる闘志を目に秘めて、ルンはミグを見つめたまま自身のライフを握り締めた。パキリと軽い音が鳴る。クズ魔石からルンの腕へ流れたわずかな魔力が、外の圧力ではなく魔力の枯渇による内部崩壊で割れたのだと告げていた。
「ゲームセット。バトルロイヤルを制したのはミグ氏でございます」
ノーブルが勝者の名前をのんびりと宣言する。とたん、上層の観客席からは罵詈雑言の嵐が吹き荒れた。名の知れたプレイヤーであるルンの勝利に賭けていた者は多いだろう。それが勝負よりも自分の都合を優先して負けられては誰も納得しない。
すぐに酒ビンの割れる音が飛び交いはじめた。机やイスの壊れる騒音があとにつづき、その残骸が雨のように降ってくる。「ミグ!」頭上のあられに注意しながら、ホッパーといっしょに駆け寄ってくるテッサの声に振り向こうとした時だった。
頬に添えられた手に引き寄せられ、声を出す間もなく覆いかぶさった影にミグは思わず目をつむる。ついに誰かが持ち出した銃声が時計の針を撃ち抜いたように、一切の音と気配が止まった。
額に触れるやわらかな感触だけが熱かった。そこはどんどん熱を増すようでミグの足は無意識に砂利を掻く。顔を背けることを許さない指先がいたずらに耳をくすぐり、羞恥がカッと胸を焼いた。
「お、ま、え、は、なにしてんだ」
「死をお望みなら手伝ってあげますよ」
額の熱が離れ慌てて身を起こしたミグは、ルンの首根っこを掴み上げるヴィンと首筋に折れた剣先を突きつけるテッサの姿を見た。ふたりの鬼気迫る形相は、沈着冷静な狙撃手ホッパーでさえ目元をひきつらせる威力だ。
その眼光を一身に浴びせかけられたルンは、両手を高々と挙げ激しく首を横に振る。
「誤解だって! ちょおっと魔力分けただけ! 〈心結の儀〉描く力もないみたいだったし!」
「だったらひとこと断って頂けます? それに少女の姿のほうがまだ好ましかったのですが」
「え。男のほうが絵的にいいじゃ――ぐえっ!?」
「一回シメる」




