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テッサは自らの剣術を補う魔法を中心に勉強していた。この魔法は中でもとりわけお気に入りだ。
「〈飛魚の羽衣〉」
魔法陣を潜り抜けたテッサは水色から紫へ濃淡を変える水の膜をまとう。それは肩甲骨と腰から扇状に翼を広げ、彼女の桃髪はまるで水中をたゆたう海藻のようになびいた。
「なんなのよもう。さっさとやられてよね!」
癇癪を魔法陣にぶつけルンは拡散する〈雷尾〉でテッサを撃ち落とそうとする。ミグはテッサの動きを先読みしていくつかの〈防護壁〉をばらまいた。
展開も耐久も考えなくていい。テッサが空を泳ぎ再び飛翔する一点の足場に、または追尾弾をひらりとかわす方向転換の起点になれば十分だ。
美しい天女がまとうという伝説の羽衣のような魔法のひれをひらめかせ、テッサは鮮やかに攻撃を避けていく。親友が上を目指しているとミグには手に取るようにわかった。それはホッパーに狙いを定めさせないためであり、有利な上空から一気にライフを叩くためだ。
ルンの最後の光弾をかわすと同時に、ミグは〈展開〉を使ってテッサの体を押し上げた。上昇から下降へ動きが変わるわずかな隙をついてホッパーが放った魔弾を剣で防ぎ、テッサは刀身に魔力をまとわせる。
「〈一閃・水月の刃〉!」
〈飛魚の羽衣〉の加速が上乗せされたひと振りが、ホッパーのライフにかかっていた〈防護壁〉を破る。色は水色。〈三重〉分の魔力を失い少し苦しそうな息をついたルンはしかし、共闘者が体勢を立て直す時間を稼ぐためテッサの前に青い壁を張る。
「ダメだよ」
すでに追撃の姿勢に入っていたテッサの前に、ミグもまた魔法陣を展開した。細く鋭く、先端の一点にだけ高魔力を集中させた〈防護壁〉がルンの〈防護壁〉を叩き砕く。
「うそ! なんでえ!?」
そして、離れた杭へ掴まり移ったホッパーの背には、壁を蹴ったテッサの剣が迫っていた。




