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「怖かったんだ。戦って死ぬことよりも、テッサを失うことが。自分の命よりも大切なんだよ、テッサが笑っていてくれること。楽しそうにしていること。幸せであること。だってテッサがそうやっていろんな表情を見せてくれるから、私は私を感じられる。きみの瞳に私の居場所がある……!」
それは、今となってはもう世界で唯一の場所。
「テッサが幸せならなんだっていいんだよ! 〈バックトゥバック〉に依存したって誰に恋したって! テッサが大好きだから寂しくなっちゃうけどでもっ、きみが泣くくらいなら今度こそ耐えてみせる!」
見上げたテッサの目がみるみる涙の膜に覆われていくと思ったら、それは鼻筋を辿ってミグの頬に触れた。そんな幼なじみの姿がぼやけてきてしまう。王族として貧民として、泣くことに意味はないととっくの昔に理解したふたりのはずなのに、なんだか最近脆くなった。
繋いだ手が暖かい。
「誰が許さなくても、私が守るから。テッサの想いも、心も」
「ミグごめんなさい……! 私も大好き。嫌ったことなんか一度もない! でも嫉妬する自分を止められなかった……。そんな私を見られたくなくてあなたを遠ざけてしまったの……! 全部間違いだったわ。できることならやり直したい……」
拭っても拭っても涙が止まらない様子のテッサを見てふと、笑って欲しいと思った。こちらも頬まで濡らしていては格好がつかないが、ミグは精一杯にかっと笑ってみせる。
「やり直す必要なんかない。嫉妬して時々剣で殴られる。それが私の親友テッサだよ!」
剣の柄をみぞおちに思いきり食い込ませられたことを口にすると、テッサはさっと頬を赤らめて目を泳がせた。その反応を見てミグは思わず声を立てて笑う。するとつられたようにテッサも小さく噴き出して、くすくすと笑った。
「テッサ、手を出して。私の動きに合わせて」
その言葉だけでテッサはミグの意を汲み取り表情を切り替える。肩の傷から滴る血に染まったミグの人さし指と重ねるように指を伸ばし、テッサはミグの描く軌跡を間髪遅れずなぞる。




