201
相手の雰囲気が変わったことを察しテッサが身構える。それをミグは手で制した。
「森を半焼させたって言ったけど、それは九歳の話だよ。私はきみみたいに使えないんじゃなくて使わないだけ」
違うね。ミグは自分の言葉を心の中で否定した。
森を焼き払ったことはけしてひけらかすべきことではない。もっと言えばそれはミグの力ではない。九年前も居酒屋倉庫でも、炎魔法を使った時胸に熱を感じた。そこで自分のものではない鼓動がして、どうやったかわからない魔法の使い方をしている。
そうだ。急速に記憶があふれてきて、誰にも聞こえない声でひとりごちる。
地下を探していた道中、記憶の一部が夢越しに見ていたようにおぼろげだった。転ぶほど疲れていた足がいつの間にか調子よくなっていたのに、ミグは疑問も抱かなかった。自分が魔力で治したような気持ちになっていた。方向がわかるのも自分の力だと思い込んでいた。
私はあの子になっていた。あの子は私になっていた。
自嘲の笑みが込み上げてくる。もしかして一生懸命練習してきたと思っている防御と治癒の魔法さえ、あの子のものなのか? だけど、そうだとしても――。
ミグは円を結び、ドラゴンの言葉を縁に刻んで、魔力量と力の作用方向を示す矢印を描き込んでいく。自分にできることはこれしかない。誰かの、なにかの役に立てるとしたら魔法しかないんだ。
「おいでよ、シェラ。きみの全力を砕いてあげるから」
意識して意地悪にささやき、うっとりと目を細め誘いかける。巨大な魔法陣を刻むシェラの手がひくりと止まり、表情が消えた頬は固く強張っている。数瞬ミグを見つめた瞳にどんな思いを浮かべたか、白の魔導師の手は再びよどみなく動き出す。
ミグもありったけの魔力を練り上げながら円環の完成を急ぐ。放射線状に伸びる矢印を二重の円で繋ぎ、そこから今度は中心へ目指す逆向き矢印を敷く。その矛先が向かうは中央の小さな円環。中に〈防護壁〉には欠かせない地の紋章、そして相反する風の紋章を刻んで叩く。




