02
「ちょっくら野グソしてくるわ」
そう言いながらゼクストが立ち上がった時、ジタン王は口に運ぼうとしたプリンをひざに落とした。
「おま……。すっごい遠くでやれよ」
「そこですか!? いやそこも大事ですけどこういうもんはもっと慎みもって言うべきですよ!?」
革の武具姿がまだ初々しい新兵のラッセンは、黒髪を振り乱して指摘する。ラッセンの茶色い目がちらちらと気にする先には、九歳のテッサ王女とミグがいた。
ゼクストの娘ミグはテッサから上品なティーカップの持ち方を習う手を止めて、ゼクストをきょとんと見上げる。血の繋がりなんてなくとも、我が娘は愛くるしい。
「ゼクスト! どこ行くの? ミグも行く!」
くりくりとした灰色の目を見つめていたら、小さな手がズボンを引っ張ってきてゼクストは苦笑った。
「ミグー。勘弁な。今にももれそうなんだわ」
「そんなギリギリまで耐えないでください!」
ラッセンの鋭いツッコミにジタン王の笑い声が弾ける。その陽気に春風も誘われたか、ベガ国森林地区の青々と萌える若葉たちをさらさら奏でていく。用水路にあるダウンタウン暮らしには滅多にお目にかかれない快晴の空から、暖かな陽光が地面に若草色のまだら模様を描いていた。
「ミグ、引き留めたらダメだよ。ゼクストおじさまお花をつみに行くんだから」
ふわふわと桃色の髪を可憐に揺らしてテッサがミグをたしなめる。すると同じ髪色を持つベガ国王は頬に手をあて恍惚のため息をついた。
「さすがテッサ。その歳で野グソを理解しているとは賢過ぎる」
「王女様にはいらない知識だと思いますけど!?」
ジタン王はラッセンを、腕はまだ荒削りだがどんな相手にも怯まない一本の太い芯を持ったやつだとゼクストに語った。ひとことで言えば気に入ったのだろう。護衛も供も連れ歩くことを嫌う変わり者の王様が、お忍びの茶会にラッセンだけを伴って現れた姿を見ればわかる。
本人は、口うるさい将軍や大臣に見つかった時の保険だと肩をそびやかしていたが。