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「んー。けじめをつけようとしてるんじゃないかな。俺もひとりで来たから、見つけた時は驚いたよ。ナキはまた勝手についてきちゃったらしいけど」
「そうだ、お前だって学校あるんだろ。なんで来た」
「今日の授業、出る意味ないんだ。免除されてるから」
あ、そうそう。と、明るいシェラの声がようやくミグの意識を引き戻した。
「バトルロイヤルでは俺もライバルなんだ。ごめんね」
だから今朝は学校に行くと嘘をついたのかと、気づいた頃にはシェラもいたずらめいた笑みを残して雑踏の中に消えていく。これにはヴィンも参った様子で髪を乱雑に掻き、「なんなんだよ」と悪態をこぼした。
とりあえずゲーム参加の申し込みを済ませなければならなかったが、興奮した人々の頭に整列して順番を待つ考えはない。だんご状態の中に突っ込んでいくしかないと腹を括ったヴィンは、ミグの分も買って出てくれた。
足手まといというよりは、脆弱な足を気にしてくれたのだと素直に思う。はじめて地下へ来た時も抱えて運んでくれた彼はもうすっかり、休みを挟むべき頃合いを掴んでいる。
ゲーム前に無理をしてもつまらないことになるだけだ。言葉に甘えたミグの足は自然とディレットの元へ戻っていた。
地下に通っていたが、こんな目立つソファが店先に置いてあった記憶はない。今日のためにわざわざ持ち込んだのか。まるで自宅のようにくつろいでいる男を見ていると、あり得ない話ではない。
「ねえディレット。なんで今日はそんな疲れた顔をしているの?」
「お前もブサイクな下げ面してるじゃねえか。いいぜ、来いよ」
フードの下からミグを見上げてそう言ったディレットは起き上がり、白い艶髪をあらわにしながらひざを打った。そこに座れという仕草だとわかったが、ミグは空いた隙間に腰を下ろす。横顔に突き刺さる物言いたげな視線は黙殺した。
「私、唯一の親友を失いそうだよ……」
ようやくミグから視線を外したディレットは、背もたれに両腕をかけて首を反らした。




