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ため息をついて髪をなでるテッサの様子はなんだか思ったよりも平気そうだ。呆然とするミグを置いてテッサはきびきびとベッドに座り、ミグにも腰かけるよううながす。その声は常人より弱い足を心配して少し厳しかった。
「テッサ、平気なの?」
「平気じゃないわ。だからほら、抱き締めさせて」
言われるがまま隣に座ったミグをテッサの腕が抱き寄せる。
「ミグになにかあったら私友だちいなくなるんだからね」
肩に埋もれてつぶやくテッサの言葉に、ミグは目をぱちくりさせた。
「私がテッサをかばったから青ざめてたの? 暗殺者に狙われたからじゃなくて?」
「そういう訓練は小さい頃から受けてるの。それに先の世界大戦記録から戦争の酷さは心得ているわ。私は王家として覚悟はできてる。でもミグはそうじゃないでしょ? 無理はしなくていいの」
やさしく頭をなでるテッサの手が急にわずらわしくなってミグは身を離した。その拍子に弾かれ行き場を失ったテッサの手を見て我に返り、迎えにいく。けれども心がどうしてもテッサの言葉を飲み込めなかった。
「無理してないよ。テッサが戦うなら私もいっしょがいい。じっとなんてしてられない」
テッサはやんわりとミグの手をほどいて首を横に振る。両肩をそっと掴み、ミグの目をしかと見つめたテッサは幼子に言い聞かせるようにゆっくりと口を開いた。
「ミグの気持ちはうれしいけれど、ゼクストおじ様が言ってたでしょ。ミグは戦ってはいけないのよ」
「ゼクストは攻撃魔法を使うなって言ったんだよ?」
「うん。でもその真意はミグを戦場に出させたくないってことだと思うの」
考え及びもしなかった言葉にミグは二の句を失って視線をさ迷わせた。「どうして?」辛うじて疑問を口にする。しかしテッサは言いかけてやめてしまった。ミグを映して切なく歪んだ目元のまま無理に笑う。
「とにかくミグは戦わなくていいの。私に守らせて」




